まばたきをする度に転がる感覚がする眼球に、肩から提げられている機能性を重視して作られた鞄から取り出した目薬を垂らす。
痛みを少しずつ与えながら角膜に染みていく目薬はじわりじわりと消えていき、潤いを残したままなくなってしまった。
痛みを思い出すように目を閉じると、目蓋を開いたときちょっとだけさっき残った潤いが無くなってしまうような感じがして開けるのが怖い。目薬の冷たい感覚がまた蘇った気がしたけれどそれはやっぱり気のせいですぐに消える。
ぴりぴりと痛い目蓋を開くとと広がる見慣れた街並は色鮮やかで目薬をさす前と少し明度も違っていた。

「…………痛…」

潤いの消えた俺の目がまた地味な痛みを伴って網膜に景色を映すとそこには新しい色彩が入り込む。それは真っ青の風船だった。陽にあたり反射する青はどこかで見たような異色さが感じられた。

「いる?」

白の糸を巻き付けた手の持ち主が俺に問う。風船の青に負けないくらい鮮やかな紫を風に遊ばせて、白い糸が指にからむ。

「貰ったんですか?」
「コンビニでな!」
「すごく嬉しそうですね…」
「ん?まぁ、お前の目の色だからな」

もう少し薄い色だけど、俺は好きだから。青の風船に視線を固定したまま言った南沢さんの言葉に俺の顔には面白いほど熱が集まり耳が熱くなっていく。
ぱたぱたと手で仰ぐ行動を見せると南沢さんはくすくすと笑いながら俺の手に白の糸を巻き付けていく。強めに白が結ばれた指を見ると先端は赤くなっていた。

「南沢さん、いたい」
「これくらいが丁度だろ」
「えっ」
「だってお前、すぐ手の力緩めるから」

白の糸を緩めようと格闘していると俺を見向きもせずに歩きだす南沢さん。後ろ姿故に映る背中が少し頼りなさげに見えた。
南沢さんの背中を凝視しつつ白の糸を弄っているとするりと逃げる。糸を掴もうとした手は空を切り青の風船は空と同化するように上にあがっていく。

「南沢さん」
「んー?」
「飛んでっちゃいました」

驚いて俺を見た南沢さんに人差し指を空に向け上を示してみる。人差し指に沿って空を見上げた南沢さんのきれいな目には雲一つない晴れ渡った青い空が映りこんでいて、ただ一言。南沢さんの目がとても、いつも以上に、きれいだった。


濁った眼球
(それはきっと夜に起こるもの)


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