突然家に呼び出されて疑問に思いながらも部屋に入ると、疾風の如く早い動きで体を押し倒されて組み敷かれた。背景にはいつもとあまり変わりの無い片付けられた部屋。艶やかなフローリングに押さえつけられて身体中が痛い。
でも、それよりも今は目の前にいる南沢先輩から目が離せなかった。無表情で、鋭い目つきで、俺を押さえつける手が氷のように冷たい。言葉にしてみると普段とあまり変わらないような気がしてきたが別にそういうわけではなく、とにかくいつもの南沢先輩ではなかった。
俺が呆気にとられて呆然としていると、舐め回すように見つめられた後に唇を深く奪われた。


「んっ…せんぱ、い」
「………っ」


俺が苦しくなって身をよじらせるといつもは離してくれるのだが今回はそうならなかった。頭がぼんやりして、だんだん酸素が足りなくなってきて、窒息死という言葉が頭をよぎった頃にやっと解放された。息をあらげて肩で呼吸を整えていると、今度は首筋に噛みつかれた。チクリと痛みが走るが拘束されていて避けることができない。
南沢先輩、どうしたんですか。何かあったんですか。何か言ってください。
そう言いたいのに先輩はそれを許してくれない。次から次へと唇を降らせ、痣をつけていく。


「せん、ぱい…っ」
「……なぁ、七助」


行動とは裏腹に穏やかな声だった。それに少し安心しながら、俺はぼやける視界の中の先輩を見つめる。中々動悸が治まらなくて苦しくて先輩の腕にしがみつこうと手を伸ばした。
けど、その手も途中で止まってしまう。


「俺のこと好きか?」


一瞬世界の何もかもが、時計の針が、先輩動きが、俺の心臓が止まった気がした。


「…好き、ですよ」





好きと言った数だけ嘘をついた

(今夜は口付けの雨が降り続ける模様です)



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2011/07/16