門臨 そんなアナタが好き 俺、折原臨也は足取りも軽く夕方のキャンパスを闊歩していた。 何しろ今日はデートの日なのである。 門から幾らか外れたところの塀に背中を預けて文庫本に目を落としている人物こそデートのお相手である俺の恋人だ。 本に集中しているだろうとおどかしのいたずらを仕掛けようとさりげなく近づくとパタッと本を閉じてジャケットの大きめのポケットに収めた。 どうやら気づかれていたらしい。 「気づいてたの?」 「門を出るのを見た」 「で、今日はどうしたい?」 俺たちのデートの行動内容に予定があることはまずない。 そして、会ってすぐに必ず聞かれる問いに必ずしも明確な答えを与える必要はない。単に俺の希望を最優先するという意思表示に過ぎないのだから。 「なんでもいいよ」 「そうか。なら、とりあえず移動しよう」 徒歩10分程度の最寄りの駅までの道を戻る。 今時誰って電子マネーを持っているものなのに“裏が黒い乗車券”を二枚買ってきて一枚俺に渡すのもいつものこと。 俺は情報の売買をしながらかなりの額を儲けていたから、交通費くらい出すと主張したこともあったが、これくらい気にするなと譲る様子も無かったので以来今の形態が日常のものになった。 「どこ行くの?」 「お前が前に始まったら観たいと言っていた映画の上映が始まったから、それでどうだ?そうじゃなけりゃ、大きな書店があるから…」 彼氏、つまりドタチンも俺も本は好きだから月に何度かは二人で書店を回ってあれこれ論評したりもしていた。 確かに前の本屋デートからは3週間ほど経っていたからそれなりに楽しめるだろう。 でも、今日は映画で決まりである。件の映画を観たいと言ったのは製作決定の頃だったからもう随分前のことだ。それなのに覚えていてくれたことが単純に嬉しかった。 「うん。映画がいい」 電車に乗って4駅。目的の映画館は駅前のショッピングモールの中に入っている。 映画のチケットを入手すると開場まではまだ30分ほどあるようだった。 同じ建物に入っている大手雑貨店で時間を潰すことにして一度映画館を出る。 デートはデートだし楽しいことは楽しい。 でもドキドキが足りないんだよなぁ。 横に並んで腕に腕を絡める。 「おい…」 「嫌?」 「普通腕組んで歩かないだろ、男二人が」 視線を逃がして言う顔が真っ赤だ。 「じゃあ手ならいい?」 肘の少し下辺りに絡めていた手を伸ばして指を絡める。 「もっと駄目だろ」 「誰も見てないって」 「いや…」 仕方ないね。 言いながら指を解く。 暫くふらふら歩いて映画館に戻ってシアターに入って売店で買った飲み物を飲む。 ビーッというブザーが鳴り響き映画が始まった。 映画館の少し大き過ぎる音量に馴れてきて、ふと横を見るとスクリーンに集中する横顔が目に入った。 二人を隔てる肘おきに載った腕に腕を添え、今度こそ逃げられない手に指を絡める。 耳許に顔を寄せて囁く。 「絶対誰も見てないでしょ」 たまにはコイビトらしいことだってしたいんだ。 拒む理由もないからだろうか、素直にされるがままになっている様は可愛らしいようでもあった。 映画を見終えた後に特有の夢から抜け出たような感覚に浸りながら尋ねる。 「そういえばさ、あのヒロインってさ、なんでラストにあんなことしたんだと思う?」 「…悪い」 「ん?」 何故か謝られた。どうしたの?と顔を見やる。 「お前の手が…気になって、映画の内容が、ほとんど記憶にない」 「そう」 なんだって。そんなに恥ずかしかったのかこのヒトは。 でもね、俺はもっとドキドキしたいんだ。 「ねぇ、今からドタチンのウチ行っちゃ駄目?」 時間は9時近い。夕食を二人で食べて、酒を入れたら帰れるかどうかはわからない。 それを示唆するように言うと、悟った内容を出すまいと努力した硬い声で、構わない、と一言だけ返ってきた。 なんだかんだで俺に尽くしちゃうアナタが好きだよ へたれ男前になってますかね…。 鉄板の映画デートネタでした。 消化が遅くなり申し訳ありませんでした。 それでは、素敵なリクエストをありがとうございました。 20110627 戻る |