門臨





理性と本能の境目で、




久々に仕事で池袋を訪れた。
シズちゃんにも見つからずに仕事が終えられたのはかなり運がいいかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると見慣れたワゴン車を見つけた。
最近ドタチンにも会えてないし、挨拶でもして行こうかな。

「やぁ。って…あれ?一人?」

いつもの四人組でいるのかと思いきや、車内には腕組みをして目を伏せた門田の姿しか無かった。

「おぅ、臨也か。久しぶりだな。どうした」
「仕事で池袋に来たら見つけたから。ね、乗っていい?」

頷かれたのでドアを開けて運転席に乗り込む。

「他の人たちは?」
「狩沢と遊馬崎は買い出しだ。文庫の発売日だからな」
「なるほど。今日10日だもんね」
「あいつら、一度出掛けると三時間は帰って来ねぇからな。渡草も諦めて、五時頃までは暇潰しに出てくるらしい」

ドタチンは腕時計を見ながらそう言った。
まだ、時刻は二時半前だ。出掛けたばかりなのだろう。



ふむ。
こんな美味しいシチュエーション見逃しちゃいけないよね。



そうとなれば…

助手席横のレバーに手を掛け、門田の膝に飛びうつりながらレバーを引いてシートを倒す。
当然呆気にとられているドタチンに向かって一言。

「ねぇ、シない?」

ドタチンは俺の意図するところを図りかねているみたいだった。
だから跨いだ膝を詰めて密着して首に手を回してやる。

「ちょっと待て!お前ここどこだと!TPOをわきまえろ!」
「だってもう何週間もシてないよ!セックスレスだよ!」

言って、深く口付ける。
堕ちてよ?

初めは拒むように動かなかったが、最後は舌が応えた。

「ね?だから、シよう?」
「でも、車、渡草のだしよ」
「汚さなきゃいいんでしょ?」

上目遣いからもう一度キスを仕掛ける。
これでその気にならなかったらきっと彼は自分に本気じゃない。
今度の躊躇いは一瞬で、背中に腕を回され、抱き締められる。
舌を引っ込めようとすれば逃がさない、とでも言うように口腔内をかき回される。
ちょっと焚き付け過ぎたかも。
長いキスに心が高ぶる。

「ぷはっ、はぁ、は、情熱的だね」
「そっちのが好きだろ、お前は」
「ん。ドタチン大好き」
「そうかよ。お前座れよ」

言われて、狭い車内で体を入れ替え、倒れたシートに座ると、俺の脚を跨いでシートに膝で乗ったドタチンに肩を押され、押し倒される。
シャツの下から手が入ってきた。

「ね、ドタチン、そういうまだるっこしいの要らない」
「要らないってなぁ。雰囲気とかそういうのはないのか」
「いいじゃん、別に。大体こんなとこで雰囲気も何もさぁ」

ここはドタチンの家でもなければ、俺の家でもないし、ホテルでもない。
再認識した事実に酷く興奮した。
マナーのいい温かいセックスも嫌いじゃないけど、たまにはこういう倒錯的な気分になるセックスもいい。

「それとも、ドタチンは前戯なしじゃ気分になれない?」

ドタチンのズボンの股間を下から撫で上げるとそこは十分な硬さで存在を主張していた。

「やめろって」
「良かった。ちゃんと興奮してるんじゃない。だったら、早く、して?」

もう知らない。と言った表情でドタチンは帽子をダッシュボードの上に投げた。

「まさか、お前ローションとか持ってないよな」
「ない、ね」

答えに一つ頷くと、ドタチンは俺のズボンを下着ごと引き下ろした。
どうするつもりなんだろうか。
と、ドタチンがシートを降り、俺の勃ち上がった性器をくわえた。

「ちょっ、待って!それ、駄目!」

ドタチンは、俺がして欲しければいつでもする、と言いながらあまりフェラを好まない。
だから慣れない感覚に、すごく恥ずかしいわけで。
しかも、シャワーだって浴びてない。

「黙ってろ。ちゃんと気持ちよくイかせてやるから」
「そこで、しゃべらないでっ」

舌が舐る直接的な快感に、手がすがるようにドタチンの頭を押さえつけてしまい、余計に快感から逃げられなくなる。
同性だからこそ、知り尽くされたポイントを集中的に刺激されて、目がチカチカする。

「駄目、あ、あん、や、イっちゃ、ぅあ」
「好きなタイミングでイっていいぞ」
「だから、そ、こで、しゃべら、な、でっっ」

裏筋を辿られて、尖らせた舌先で先端をつつかれたら、もう、我慢なんて出来ない。

「でる、でちゃうっ、あああぁああ!!」

頭の中がスパークする。

「はぁっ、は、ドタチンの馬鹿」
「良かっただろ」

ドタチンは口を暫く動かして唾液を混ぜるとと、手のひらに口の中のものを吐き出した。
それを指に絡めると、俺の片足を持ち上げ後孔が突かれる。

「それ、ローション代わり?」
「無いよりマシだろ?」
「まぁ、ね」

先程の口淫はそれが目的だったわけだ。

「しっかり力抜いとけよ」
「うん」

ドタチンは紳士だ。俺の身体をいつも最優先にする。それが時々物足りないのだけれど。
深く息を吐いて力を抜いていると、くるくると円を描くようにして馴染ませてから指が入ってくる。
最初はグッと押し込むように、それから入り口を拡げるように。

「ぅあ、あ、」

何度行為を重ねても、最初に指が入ってくるときの異物感には慣れることが出来ない。
けれど、やってくる快感への期待に疼くのもまた事実で。

二本に増えた指で前立腺を突かれると、伸びた脚が震えてダッシュボードを蹴った。
外同然の環境で下半身を曝して喘いでいる自分なんて恥ずかしくてたまらないのに、その事実を認識するとどうしようもなく興奮する。

「そろそろ、いいか?」
「いい、よ。きて」

こんな風に聞いてくることだって普段だったら有り得なくて。
普段なら、焦れた俺がOKサインを出すのに。
ドタチンをそんな風にさせるからってこんなアブノーマルなシチュエーションが嬉しいなんて、俺も何処か狂ってるのかもしれない。

「あっ、あ、あ、くるっ、入ってくる」

一度奥まで入ったそれは再びギリギリまで引き抜かれる。そして、また奥へ。
離すまいと絡みつく結合部が音を立てる。

「ドタチン、いい、きもちい、い」
「名前、呼べよ」
「えっ?」
「あだ名じゃなくて、名前」

改めてそんなこと言われるとすごく緊張してしまう。

「京、平、」
「もっと」

見上げた目は色濃く情欲を映していた。
もっと夢中にさせたくて、後ろを締めて腰を揺すりながら名前を呼ぶ。

「京平、好き、あっ」

臨也に誘われる形で門田も腰を振る。
激しい動きに、もうついていけない。「あ、だめ、そんなに、しちゃ、壊れちゃう」
「辛いか?」
「だいじょ、ぶ、んっ、でもよすぎて、あぁんっ」

先走りを溢れさせる性器に手が伸ばされる。

「も、むり、イっちゃ、らめぇ」
「臨也、好きだ」

言われて口付けられ、飲み込まれた悲鳴と共に白濁を門田の手の中に吐き出した。
後ろからズルリと一気に出ていく感覚がして、目を向けるともう片方の手のひらで器用に自分の精を受け止めていた。

「中に出して良かったのに」
「そういう訳にもいかないだろ。お前これから帰るんだから」
「よくそんなこと考える理性残ってるよね」

本気じゃないの?
疑うように向けた目に門田は苦笑をもらす。

「お前が思っている以上に俺はお前に夢中なんだぜ」
「信じといてあげるよ。手出して」

手をとって、門田の精液を舐めとる。
もう一方の手、臨也の精を受け止めた手を困ったように見ながら門田は複雑な表情である。

「お前なぁ」
「濃いね。あんまり溜めない方がいいんじゃない」


「また新宿に来たら?他に行ったら許さないから」

臨也は素早く身支度を整えると、触れるだけの軽いキスを残して熱に曇った窓ガラスの嵌まったドアを開けて去っていった。

後に残された門田が証拠隠滅に追われたのは言うまでもない。



素敵企画「職人と情報屋の日常」様に提出させていただきました。
オチがつかなくてこんな形になりましたが…いかがでしたでしょうか。

初門臨です。しかもエロ。
お楽しみ頂けたら幸いです。


20110402


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