とある高校時代の同輩からの電話が俺の生活をガラッと変えてしまったんだ。


「はい、もしもし。折原です」
「来神高校の同窓生の平和島ですが」
「シズちゃん!?」
「あぁ」

シズちゃんと俺は、高校時代は喧嘩ばかりしていた間柄で、高校を出て六年も経った今更連絡してきたことに驚いた。

「えーと、何の用?」
「いや、あのさ。今度予定合わせて会えないか」

確かに、昔は喧嘩ばかりだったが、今となってはそれもいい思い出だ。俺は会ってもいいか、という気持ちになった。

「別にいいけど」
「そっか」

受話器の向こうからホッとしたような返事が聞こえた。

確か明日から三日間は特に大事な予定は入っていなかった筈、と伝えると、じゃあ明日11時にあのふくろうの交番前で、と手短に畳まれた。


翌日、11時少し前に着くように待ち合わせ場所に行くと、向こうが気づいて手を上げて合図してきた。
金髪にサングラスにバーテン服という格好は場の雰囲気からすると明らかに浮いているのだが、彼のチョイスなのだろうか。

「おはよう、久しぶり」
「だな。六年ぶりか。話、飯でも食いながら、と思ったんだが、マックでいいか?」
頷いて、近くのマックに入った。

先に席をとり、上着だけを残し、注文に行く。
そこまでは何も問題は無かった。


注文し、商品を受け取り、チキンフィレオのセットの乗ったトレーを持って席に戻った。

席に戻るとシズちゃんはもう戻っていた。そこでテーブルの半分を占めているシズちゃんのトレーを見ると、

「普通のハンバーガーと……水?」
「ちょっとな、金欠で」
「にしても、それ100円…」

大体その注文許されるの、高校生までじゃない……?
と思ったのは懸命にも口には出さなかった。

「で、話なんだけどさ、」
「うん」
「あぁ、どこから話したらいいか……」
「とりあえず、何の用件?勧誘?依頼?」

シズちゃんは、暫く頭を抱え込んでいたが、何も言わずに待っていると、数分後、遂に顔を上げて話し始めた。

「俺さ、今、絵描いてるんだ。」
「画家ってこと!?」
「まぁ。我流なんだけどさ。絵でやっていこうと思ってる。で、さ。三ヵ月後に人物画のコンクールがあってさ、応募したいと思った」
「うん」
「でも、俺にはモデルがいない。しかも、金も無い。けど」

ここで、シズちゃんは水を一口飲んだ。
気づいてみると、チキンフィレオが冷めかけている。
食べなきゃ。

「俺のモデルになってくれないか」
「は!?ちょっと待って!!美人な女の子紹介して、とかじゃないの!?」
「なんでそうなるんだよ」

だって、普通絵のモデルって言ったらスタイル抜群な美人の女性で……
俺がそう言うと、シズちゃんは、首を横に振った。

「俺が手前を描いてみたいと思ったんだよ。悪いか」
「え、そ、んな急に…」
「……まぁ、無理言ってるのはこっちだしな。悪かった。忘れてくれ」

ちょっと待って。そんなに簡単に引いちゃうの?
別に興味ないとか言ってないじゃん。


これ以上悩んでる時間は無い!

「待ってよ!俺のやりたい日だけ、なら、いいよ」
「マジか!!」

シズちゃんの顔が喜びに溢れた。
そんなに嬉しいんだ。
シズちゃんはやっとハンバーガーに手をつけた。
絶対冷めてるよ、それ。

「次の木曜暇か?」
「木曜はちょっと。水曜か金曜なら一日大丈夫」
「なら、金曜、アトリエ、言っても自宅兼用だけど、来てくれ。住所は、卒アルので変わってないから」

絵のモデルって何か用意がいるんだろうか。
そう聞くと、特に何かあれば改めて言うとのことだった。

昼食を終えて、帰途に着いたその足は期待で軽かった。


20110103
 


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