俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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会いたい




俺は大学生になって、名字は一つ学年が上がった。俺たちの間で変わったことといえばそれくらいで、他は何もかも今まで通り。

ただ、それが一番の問題でもあった。


『花形さん、大学は・・・どうですか?』
「ああ、やっと落ち着いたってところかな」


受話器を片手に、壁に背を預けて話をする。

向こう側から聞こえてるのは、マシになったとはいえやはりまだ少しどもりながら話す名字の声。しかしそれさえも俺の耳には心地よく感じられた。

入学してからしばらくは授業のガイダンスやらで慌ただしく過ごしていたが、そろそろ新しい環境にも慣れた。とはいえ、毎日が部活三昧の名字とはなかなか会うことが出来ず、こうしてたまに電話で話すのが殆どだった。俺も元は同じ部活だったから、その忙しさは理解している。

理解はしているが・・・やはり彼女と会えないのは堪えるな、と小さく笑った。


「・・・名字」
『はい?』
「次の日曜、時間あるだろう?」


俺がそう聞くと、どうして知ってるんだと言いたげな雰囲気が受話器越しに伝わってきた。彼女の表情が容易く想像できて、くつくつと笑いながら、タネ明かしをする。


『なんだ・・・健司くんに聞いたんですね』
「そういうことだ。お前の試験も近いし、一緒に図書館に行かないか?」
『行きたい、です!』


名字の弾んだ返事に頬がゆるむ。


「・・・勉強が好きになったんだな」
『ち、違います、私は花形さんに会えるのが・・・嬉しいから・・・』
「そうか」


殆ど言わせたようなものだが、名字の素直な気持ちを聞いて、無性に抱きしめたいと思った。せめて頭を撫でてやりたい。そうすれば、彼女は嬉しそうに目を細めて俺に笑いかけるのが分かっているから。


(・・・日曜まで、我慢だな)


楽しみにしてると言うと、私もですと嬉しそうな名字の声が返ってきて、俺はいつまでも電話を切りたくないと思ってしまう。

日曜日、名字の勉強を見てやって同じ時間を一緒に過ごして。ただそれだけの約束が、いまから待ち遠しくて仕方がなかった。



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