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好きです
俺の左手を握りながら、気持ちを伝えてくれる名字が可愛く思えて仕方がなかった。赤く染まった顔や耳、少し潤んだ目、体温の高い手も・・・全部が愛おしい。
「花形さんは健司くんと同じように・・・私のことを妹ぐらいにしか思えないかもしれない、ですけど・・・」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で自信なさげに呟かれたソレに、軽く頭を振って答える。
「・・・初めはそうだった。藤真に頼まれたからには、俺が面倒をみてやらないとって。一生懸命に俺の後をついてくるお前のことを妹のような感覚で見てた」
そうですよね、と見るからにしゅんとしてしまった名字の頭に、空いていた右手をそっと乗せる。なるべく優しく、彼女の髪に指を通した。
「妹のような子だから・・・そう、思い込もうとしてた。いつも名字のことばかり考えてしまうのは、当然のことだって。でもそうじゃなかった」
もし本当に妹がいたとしても、四六時中その子のことを考えるかと言われたら、たぶん違う。
簡単なことだ。名字の事をすぐに思い浮かべてしまうのは、目で追ってしまうのは、こんなにも気になってしまうのは・・・
「好きなんだ、お前のことが。一人の・・・女の子として」
「ほんと、ですか」
「・・・俺が名字に嘘ついたことあるか?」
「は、花形さん・・・っ!」
ガバッと今度は飛びついてきた名字をしっかりと受け止める。さっきのキスといい、これといい、今日の名字は本当に別人のようだ。
それを彼女に伝えると、俺の服に顔を埋めたまま一瞬肩を揺らして、何やらボソボソと言っている。
「・・・何だ?」
「嫌、でしたか?」
(・・・っ)
ぴったりと寄り添いながら俺を見上げたときの名字の上目遣いに、冗談抜きに頭がくらっとした。
「・・・驚きはしたけど、な。お前がこんなに積極的だとは思わなかった」
もちろん嫌な訳が無い。正直に、嬉しかった。しかしそれを認めるのも少し照れくさくて、話を逸らした。
「う・・・ほんとは、死ぬほど恥ずかしいですよぉ・・・」
「ハハ。だろうな」
小さく笑ってから、彼女の目尻に溜まっていた涙をそっと親指で拭う。
壊れそうなほど早鐘を打っていた心臓はいつの間にか平常に戻り、今は心地よいリズムで鳴っていた。