俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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不意打ち




(・・・は?)


俺はこれでもかと言うほど目を見開いて、どうにも身動きが取れなくなっていた。ついでに息も、出来ない。


どうしてこうなった?


疑問ばかりがぐるぐると頭を占領していた。ベンチに座ったまま、両頬に手が添えられ、目の前には名字の顔がある。彼女の瞼は閉じていて、そしてあろうことか、俺たちの唇は僅かに合わさっていた。いわゆるキスと呼ばれるそれが何故成されているのか、思考がまるで追いつかない。


「・・・」
「・・・名字?」


体感にすると恐ろしいほど長く感じたそれは、実際にはほんの一瞬のことで。上半身を屈めていた俺は、名字が離れてもそのままの体勢で動けずにいた。とにかく、それだけ、今の出来事が衝撃的すぎた。

やっと体を起こした俺は、名字に何を言えばいいのかと考える。そもそも何で俺は名字とキスしてるんだ。告白もすっ飛ばして。
ただ、俯いて黙ったままの彼女の耳が、これ以上無いってほどに赤くなっているのに気が付いた。


(・・・)


沈黙の間に、だんだんと思考能力が戻ってくる。さっきの一瞬の記憶が鮮明に蘇ってきて、じわじわと体温が上がってくるのが分かった。顔も、かなり熱い。

一刻前、名字と視線が合った俺は、覚悟を決めて告白しようとしていた筈だった。しかし好きだと言う直前、彼女の両手が顔に伸びてくると、ぐい、と下へ引っ張られていた。
抵抗する間もなく、彼女へのしかからないようにとベンチの背に片手をついた時には、名字から俺に口付けていたように思う。


(・・・名字から、キス?)


はたして彼女はこんなに大胆な行動が取れる人間だっただろうかと自分に問いかける。少なくとも、俺の知っている名字は、恋愛ごとにはひどく消極的な筈だ。

実は別人なんじゃないかと、もう一度視線を向けた。と同時に、今度は無造作に置いていた左手をぎゅうと握られて、大袈裟なほど全身を強張らせた俺。



「あの・・・私、花形さんが、好きです。大好きです」


(・・・これは本当に、名字か?)


心臓が止まるかと思った。


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