俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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入れ知恵とお節介




昨日の夜、家に訪ねてきた健司くんは、「部屋いくぞ」と言うだけでさっさと私を通り過ぎ、居間にいる私の両親に軽く挨拶をしてから階段を上がっていった。
幼馴染の彼は昔からこういうことが少なくなかったから、仕方ないなぁと思いつつ、二人分の飲み物を用意してから私も後を追いかけた。



「単刀直入に言うけどさ、名前、花形に告れよ」


あっけらかんと言い放たれて、飲んでいたジュースを危うく吹き出しそうになった。ゴホゴホと咳をしてから、非難の目で健司くんを見る。
何の冗談だと言うと、彼は至って真面目な顔で私を見つめていたので、う、と息を詰まらせた。私の苦手な射抜くような視線だ。


「・・・そ、んなの、出来ないよ」


自分で思っていたよりも弱々しい声が出た。


「好きなんだろ?俺らはもう卒業なんだよ。それとも、花形がお前のことなんか忘れてどこぞの女と付き合ってもいいのか?」


ゴーンと、頭を殴られたような衝撃が走った。健司くんの言う通りだ。このまま花形さんが卒業して会わなくなったら・・・きっと、彼女なんてすぐに出来る。だって花形さんはあんなに素敵なんだもん。周りの人が放っておくわけない。
私が半泣きでモヤモヤと考えていると、健司くんは駄目押しするように「お前が思ってるより、あいつってモテるんだぜ」と続けた。


「ほ、他の人と付き合っちゃ、やだ・・・」


向かい合った健司くんは絞りでた私の本音に満足そうに頷くと、今度はいつものニヤリと何かを企んでる顔をした。・・・すごく嫌な予感がしたけど、逃げられそうに無いことも分かってる。


「オニーサマが極意を教えてやるよ。これを実行したら絶対いけるから」
「・・・どうしたらいいの?」
「どうせ、お前は口じゃ上手く言えないだろうからな。やることはひとつ・・・『目を合わせてキス』だ!この時大事なのはな、いいか、ほっぺじゃねえぞ。口だ、口!ちゃんとやれよ!」


唖然とする私の目の前でグッと親指を突き立てて、爽やかに笑っている。そりゃあ元の顔が整ってるからかっこいいけど!言ってることがめちゃくちゃだよ!


「出来るわけない!健司くんのバカッ・・・花形さん、きっと困る・・・」
「名前さ、この一年頑張ったじゃん。変われただろ。もっと自分から積極的に行っていいんだよ」
「健司くん・・・」


伸びてきた手にぎゅ、と鼻を摘まれる。一応手加減はしてくれてるみたいだった。


「それに、こんくらい強引にいかねーと、花形はいつまで経っても俺に遠慮しちゃうだろ」


健司くんはボソッとそう呟くと、それじゃあと言って立ち上がった。つられて私は後を追う。


「明日、部活の後・・・学校近くの公園な」
「え・・・?」
「もう花形は呼んであるからさ。頑張れよ」


それを最後に部屋のドアが静かに閉められて、健司くんは帰ってしまった。残された私は固く目をつむって深呼吸をすると、早々にベッドに潜り込んで次の日を迎えた。






花形さんと目が合って、私は健司くんに教えられた極意を思い出していた。


「名字、俺はずっと・・・っ!?」


そして、今がその時だと思った。一生分の勇気をかき集めて、花形さんが何かを言う前に自分の口を押し付けた。


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