俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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謀りごと




昨晩、借りていた物を返したいから公園に来てくれと藤真から電話があり、どこか引っかかりを覚えながらも俺は了承した。というのも、藤真に物を貸した覚えがなかったからだ。矢継ぎ早に要件を言われてしまったので聞き返すことも出来なかった。

でもまあ、どうせ用事もないしいいだろうと気にも留めていなかった。




(・・・もうすぐ部活が終わる時間、か)


公園の敷地内にある時計をぼんやりと眺めながら、今頃コートの片付けでもしているであろう後輩たちを思う。

学校から程なくのこの公園は、部活帰りに何度も皆で寄ったことがあった。その懐かしさに、つい目を細める。最後に来たのはいつだっただろうと記憶を辿っていると、少し離れた場所から自分を呼ぶ声がした。


「花形さん・・・!」


ん?と一瞬自分の耳を疑う。俺が約束していたのは藤真じゃなかっただろうかと、近付いてきた名字を見ながら首を傾げた。


(・・・まさか、あいつ)


「名字、どうしてここに?」
「あれ?・・・私、健司くんに呼ばれたん、ですけど・・・先輩は?」
「そうか。俺もなんだ」


可笑しいですね、と困った様な顔をする名字に俺も小さく笑い返した。

いきなり彼女が現れたことに驚きはしたが、藤真が何故そう仕向けたのかはおおかた予想が付いた。あいつはここに来ない。それはつまり、何度も確認されていた気持ちに決着をつけろということだ。

まったく、余計なことをしてくれる。



「・・・花形さん、合格おめでとうございます。その、健司くんから聞きました」
「ああ、ありがとう」
「皆さん志望校に受かって、すごいですよね・・・ちゃんと、文武両道」


暗がりの中、ベンチに並んで座る俺たち以外に人はいなかった。だからか、いつもは小さく聞こえる名字の声が、よく耳に届く。


「お前も頑張ってるよ」


そう言って隣を見ると、薄っすらと頬を染めて笑う彼女がいた。その顔から視線を外せない。
ふいにこちらを見上げた名字と視線が合った。グッと両手に力を入れて、少し冷たい空気を吸う。

自分の心音が速くなったのが嫌に耳についた。


(・・・言うなら、今だ。)

「名字、俺はずっと・・・」


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