俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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敵わない




「名前?呼んでねーけど」


集合時間に少し遅れて合流した藤真は、皆の疑問にあっけらかんとそう答えた。

名字が来ないなら来ないでどこか違和感を持ちつつも、最後は男だけで集まるのもいいじゃないかということになり、そのまま目的地へと向かった。



「やべ・・・苦しい」
「俺も・・・」

「お前らは食い過ぎなんだよ」


藤真のツッコミに、同感だと頷く長谷川と俺。とは言え、以前から話題になっていた駅前のバイキングは聞いていた通りに美味くて、俺もこんなに食べたのは久しぶりだった。

その後は腹ごなしにでもと近くのバッティングセンターへ寄ったりして、気が付けば日も暮れるという頃合いだった。





電車に乗った帰り道、一人また一人と別れて最後は俺と藤真が残っていた。


「・・・花形さあ、名前とどうこうする気ねーの?」


しばらく黙っていた藤真が、ドアにもたれて流れる景色の方を眺めながら言った。


「どうこうって・・・」


俺は急な問いかけにどう返すべきかと口籠った。


「前にも聞いたけどさ、名前のこと好きだろ?もちろん恋愛的な意味で」


それは以前にも一度聞かれていたことだった。あの時、たしか俺は「よく分からない」と答えた筈だ。


「そうだとして、お前はいいのか」
「まあ、複雑な気持ちがないって言ったら嘘になるけど。他の誰より、お前なら安心出来るかなって」
「・・・」


周りに聞こえないぎりぎりの音量で話す藤真は、俺の方を見ようとはしない。ただ、窓に反射したこいつの口元は確かに笑っていた。


「・・・ま、お前の気持ちなんて見てたら分かるけどな」


そう言って完全に背を向けた。ちょうど電車が駅に到着し、「じゃあまた」と片手を上げて開いたドアをサッと通る。

藤真の体格はバスケ部の中でも小さい方だったが、残された俺からはその背中が何故かとてつもなく大きく見えた気がした。



『名字って花形のことかなり好きだよなって話』
『名前とどうこうする気ねーの?』


今日言われた言葉たちが、頭の中で繰り返される。

食事中、色んな料理を眺めながら、名字がいたらどれほど喜んだだろうなんて、彼女の顔を何度も思い浮かべてはそれを消すために目を瞑っていた。
いい加減、俺も自分の気持ちを認めるべきだと小さくため息を吐く。


それにしても、本当、藤真には敵わないよなあ。


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