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とくべつ
飯でも行くかと言い出したのは誰だったのか、とにかく卒業を目前にして、今日はいつものメンバーで集まろうということになっていた。
「おっす、花形」
俺と藤真以外の三人が立っているのは、遠目からでもすぐに分かった。そこに居るだけでかなり目立っている。なんせこの顔ぶれだと、全員が190を超える長身だからだ。
そのため、いい意味でもその逆でも、周りからは好奇の眼差しを向けられていた。
(・・・それも、この三年間ですっかり慣れた)
「俺、朝メシ抜いてきた」
「・・・気合い入ってるな」
早く食いてえ、とぼやく高野に長谷川が小さく笑った。
そんな光景を静観しながらそっと腕時計を見る。あと来ていないのは藤真だけだったが、あいつが時間に遅れるのは珍しいなと思った。
「・・・そういや、名字も来るのかな?」
それとなく周りを眺めていると、隣で高野が言った。名字が入部してからはどこへ行くにも一緒に行動することが多かったから、そう考えるのも当然だ。
「どうなんだ?花形」
「聞いてないが・・・というか、なんで俺に聞くんだ」
「名字のこと一番知ってんのはお前だろ」
「・・・」
一番は藤真じゃないか、と思っても口にはしない。
実際に、自由登校になってからは名字と会うことも無かったし、最後に会ったのも体育館に顔を出したあの時だ。今日の集まりに来るかなんて・・・俺が知っている筈もない。
「・・・名字にとって藤真が特別ってのは知ってるけどよ」
腕を組んだ永野が、唐突に切り出した。
「花形も違う意味で特別だよな」
「あ、ソレ分かる」
「・・・だな」
永野の言葉と、畳み掛けるように頷いた他の二人に、俺はただぽかんと間抜けな顔を向ける。
「つまり、名字って花形のことかなり好きだよなって話」
言われた内容を理解するのに、かなりの時間を必要とした。
「あ、これ藤真が聞いたら怒るかな?」
気持ちに余裕が無かった俺は、内心で「知るか」と答えることしか出来なかった。