俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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兄と妹と




ピンポン、と鳴ったチャイムを聞いて玄関のドアを開けると、そこには部活帰りでまだ制服姿のままの幼馴染がいた。


「健司くんおめでとうっ」
「おう、サンキュー」


結果待ちだった大学受験の合格が分かった日の夜。お祝いだと言って名前が家を訪ねてきた。


「上がれよ」


用意されていた豪華な夕食を一緒に食べようと、名前に気が付いたうちの母親が手を引っ張り少し強引に席に着かせる。いつもより浮かれた様子の母親を見て、にっこりと微笑み返した名前。
昔から俺の知らないところでこの二人はとても仲が良かった。



夕食後、俺の部屋に行こうと名前が言い出した。特に断る理由も無いし、俺たちにはよくあることだったから軽く了承して二階に上がる。


「あの大学に受かるなんて・・・健司くんて、やっぱりすごいんだねぇ」
「やっぱりってなんだよ」


ベッドに座る俺と、地べたに体育座りをする名前。尊敬の眼差しでこっちを見上げていて、まあ悪い気はしなかった。


「そういや、花形も志望校受かったってよ」


ふと思い出してそう言うと、ビクリと肩を震わせた名前。その意外な反応に首をかしげていれば、おずおずとした様子で口を開く。


「よ、よかった・・・」


花形の成績を考えたらそんなに心配することでも無かったろうに。むしろ俺からしたら、お前の学年末試験の結果の方が思いやられるぞとは、口には出さないけど。


「でもあれだな」
「・・・あれって?」
「流石に、もうついて来いとは言えねーって話」


名前の手を引くのはいつも俺の役目だった。誰に頼まれたワケでも無かったのに、それが幼馴染として当然のことだと思ってた。
だから高校も翔陽に来れるように無理やり勉強をさせて、何度も泣かれたけど、そうでもしないとこいつは変われないままだと思ったから。まだまだ、俺が付いててやらないとって思ってた。

でも、俺にだって自分の生活がある。バスケだって主将と監督を兼任しなくちゃいけなかったし、勉強だってサボってはいられなかった。だから、どうしようかと悩んだ末に、親友に協力してもらうことにしたんだ。


(そんで名前は、もう俺がいなくても・・・大丈夫だ)


花形のおかげで名前は見違えるほど変わった。極度の人見知りが、人並みになった。そこにはもちろん本人の頑張りもあるけど。


そんな風に考えながら名前の頭に手を伸ばしてくしゃくしゃと撫でた。



「今まで、ありがとう、健司くん」


髪を乱されながらぼそりと呟いた名前の声は、しっかりと俺の耳に届いていた。


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