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足りない
「はよ、花形」
「・・・おはよう」
まだ慣れねーな、と苦笑する藤真に同意するように俺も頷いた。
今までよりもずっと遅い時間に登校して、授業を受ける。藤真と名字と昼飯を食べる。授業が終わればそのまま帰宅する。その単調な毎日に物足りなさを感じてはいたが、何をどう言ったって変わりはしない。
俺たちはただ、目下の受験に向かってひたすら勉学に励むしかなかった。
「あーつまんね。バスケしたい」
「そうだな」
「・・・今ごろ練習してんだよな。ちゃんとやってっかな、伊藤」
「やってるさ」
「はあ・・・」
大きなため息を吐く藤真に俺はちらりと視線をやるだけで、それ以上は何も言わなかった。
気持ちは、分かる。誰よりも分かる。それは俺だけじゃなく、引退した代のやつらなら皆そうだろう。バスケがしたくて堪らないのは藤真だけじゃない筈だ。
だからと言って、新チームになって頑張っている後輩達の邪魔をしてしまうのは本意ではない。
「なんかこう・・・心にぽっかり穴があくっていうの?」
「燃え尽き症候群か?」
「それそれ。俺、この先今まで以上に頑張れることなんて・・・あるのかな」
「・・・まだまだ人生長いぞ」
「おっそろしいよな」
そう言っておどけた表情で笑う藤真だったが、ふと真面目な顔に戻った。
「・・・悔いがないっつったら、嘘になるけど」
藤真の口から小さく呟かれたそれを聞き逃すまいと、しっかり耳を傾ける。
「あれが俺の全力だった」
おそらく藤真の心の奥底からの本心だろうそれを聞いて、俺は声に出さずとも深く同意をした。
試合の光景を思い浮かべると、ブザーが鳴る直前に放ったシュートの感覚が蘇ってくる。それと同時に、少しの切なさがどこからとも無く俺の胸に迫ってきた。
(・・・俺も、全力だった)