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前よりは
「名前ちゃんちょっと待って」
「あ・・・仙道、さん」
お手洗いに行って、翔陽のバスケ部の人たちが試合を観戦してる場所に戻ろうとした時。うしろから声をかけてきたのは、私の苦手な先輩だった。
「その、お疲れさま・・・です」
昨日の武里戦、次いで今日の陵南戦も勝ったのは翔陽だった。さっき戦ったばかりの相手に何て言えばいいのか分からなかったけれど、私は小さく会釈しながらそう言った。
「ん、名前ちゃんもお疲れ」
仙道さんはこれから学校に戻って練習らしくて、「今日くらい休ませてくれてもいいのにな?」と言ってからにっこり笑っていた。
チームのキャプテンらしくないその発言に私は苦笑いをした。でももしかしたら、そういうマイペースなところが良さなのかもしれないなあと心の中で思う。
・・・私には真似できない、けど。
「翔陽はまだ試合観戦?」
私がコクリと頷くと「そっか」と呟いて、頭の後ろに手をやった。
花形さんはとんでもなく背が高いけど、この人も負けてない。花形さんで慣れてるはずなのに、見上げているとだんだん首が痛くなってきた気がする。
「そっか。藤真さんによろしくね。あと・・・花形さんにも」
「は、い」
「ん。じゃあ俺はもう行くかな?監督にどやされちまう」
肩を竦める姿がなんだか可愛い。・・・男の人に使う言葉じゃない、だろうけど。
「翔陽にはまた借りを返すからね。伊藤くんに言っといて」
そう言って背を向けた仙道さんの姿が見えなくなるまでそこにいた私は、帰りが遅くて心配しているだろう花形さんや健司くんの元へ急いで向かった。
(仙道さんのこと・・・前より、苦手じゃなくなってるの、かも)