俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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意地っぱり




「花形さんっ!こっちです」


模擬店や展示にキョロキョロしながらいつもよりはしゃいだ様子の名字に、夏祭りに出かけた時の姿を思い出す。
「どれも美味しそうですね!」と俺に笑いかける彼女を見て、不覚にも鼓動が早くなったような気がした。


「相変わらず、色気より食い気だな」
「う・・・だめですか」
「いいんじゃないか?」
「じゃあ、なんで、笑ってるんですかっ」


ククク、と笑っている俺に頬を膨らませた彼女は、そのまま一人で先に進んだ。
いろんな店や飾り付けでごちゃごちゃしている廊下だったが、俺は見ての通り身長には恵まれているため人混みの中でも名字を見失うことは無かった。



「あ、名字!・・・と、花形さん」


1年が出店してる階に行くと、通りかかった模擬店から誰かに呼び止められた。
そちらを振り向くと、いつかの名字に告白してきた男がいて、胸元にベビーカステラと書かれたTシャツを着ていた。恐らくクラスで作られた揃いのものだろう。

呼ばれたものの俺はそいつと直接の関わりは無いので、黙っていた。名字はその姿を見た途端、さっと俺の背にしがみついてそこから少しだけ顔を覗かせていた。


「文化祭デート?羨ましいな」
「え・・・あ、あの・・・」
「はい、どうぞ」


話しかけられて口ごもる彼女に微笑みかけた男が、すっと小さな紙袋を差し出した。彼のTシャツと同じロゴが入ったそれからは焼きたての甘い匂いが漂っている。


「わぁ・・・」
「カステラ好き?よかったら食べてよ」


さっきまで警戒していた彼女はすっかり態度を変えて、その視線はしっかり紙袋に向けられている。

(・・・まったく、食べ物になるとこれだからな)


「おいくら、ですか?」
「いいよ。これは俺から名字に」
「え・・・」

「300円、だな」


模擬店の看板で料金を確認した俺は、そいつが口を開く前に小銭を渡し名字が紙袋を持っていない方の手を引いて歩き出した。



「あのっ、花形さん!」
「ああ・・・悪い」


しばらく無言で進んでいた俺の手を名字が引いて止めた。


「何か・・・怒ってます、か?」


少し潤んだ目で見上げる彼女から視線を外して、「なんでもない」と話をそらした。
それ以上は何も聞いてこないことに少し安心しながら、隣を歩く彼女に歩調を合わせる。


(・・・たった300円で意地になるなんて)


これじゃあ藤真のことを子供っぽいなんて言えないと、俺は先ほどの自分に呆れていた。



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