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一緒がいいんです
「もうすぐ、文化祭ですね」
「ああ。名字のクラスは何をするんだ?」
「私のところは・・・絵の展示で、当日は何も無いんです」
昼に用があるという藤真がいない二人だけの昼食。久しぶりの状況になんとなく心臓がざわついた。しかしそれを顔に出すことはなく、いつも通りに話すよう心がけた。
「花形さんは何を・・・?」
「うちのクラスは劇らしい。が、部活を優先させてもらってるからな。詳しくは俺も知らないんだ」
「そう、ですか」
文化祭のことを話しながら、持参していたお茶を喉に通す。自分より幾分下の位置にある名字の方へ視線をやれば、ちょうどおにぎりを頬張っているところだった。
その時ふと思いついたことを口にしてみる。
「文化祭、一緒にまわろうか」
別に深い意味はないと自分に言い聞かせながら提案すると彼女は、ぱぁ、と花が咲くように笑った。
でもそのすぐ後に眉を下げて不安そうな顔をするので、「どうした」と尋ねる。
「・・・他に一緒にまわりたい人、いないですか。私で、いいんですか?」
「そういう奴がいるなら、こうしてお前と過ごしてないだろ」
「・・・でも」
まだ何か言おうとする名字の額を少し弾いた。いわゆるデコピンだが、本当に軽くだ。
「お前は、どうなんだ」
「私は・・・花形さんと一緒がいい、です」
「それでいいんだよ」
言っててどことなく気恥ずかしくなった俺は、彼女の頭を撫でることで自分の顔を見られないようにした。
小さく笑う名字につられて、俺も知らないうちに笑っていた。