俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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焼肉奉行




久しぶりに見た名字の元気そうな姿に、安堵のため息をついたのは記憶に新しい。そして彼女が風邪から復活したおかげで、部活に以前よりも華と活気が戻った気がしているのは俺だけじゃないだろう。



「・・・腹減った」


練習後はだいたい真っ直ぐ家に帰るが、日によっては寄り道したり皆で飯を食いに行ったりもする。
そしてそういう時の発案者はたいていが藤真だった。



「名字、ほら焼けたぞ」
「わぁっ・・・!」


ちょうどいい加減に焼けた肉をせっせと取り皿に運ぶ俺と、それを旨そうに食べる名字。その姿を見て長谷川から「まるで雛にエサをやる親鳥だな」と言われたが、自分でもそんな感覚だったしむしろ進んでやっていた事なので何も言い返しはしなかった。


「焼肉なんて久しぶりだなー。高野ナイス」
「期限が切れそうで勿体無いと思ってたんだ」


何か食いに行こうと言う藤真に「ちょうどここに割引券が」と高野が取り出したのは焼肉食べ放題の半額券で、たまたま懸賞で当たったものらしいがその存在をすっかり忘れていたらしい。

決まりだな、と喜ぶ藤真に首を横に振るやつはいなかった。



「おい焼肉奉行、名前ばっかりズルくねー?俺にもくれよ」
「誰が奉行だ。お前は十分食べてるだろ、少しは名字に焼いてやれよ"オニーサマ"」
「お、お前にそう呼ばれる筋合いはねえ!」


「・・・二人ともなに熱くなってんだよ?」


呆れる高野の隣で俺は小さく肩をすくめた。藤真は心なしか拗ねたような表情をし、他の奴らはいつものことだと我関せずを通していた。

・・・食の事になると藤真は本当にうるさい。



「はい、花形さん。こっちは健司くん」


俺たちの子供じみた言い合いを見かねたのか、いつの間にか俺が持っていたトングを使って焼けた肉をそれぞれの皿に置いた名字。


「あと10分で・・・終わっちゃいますよ、食べ放題」
「え、嘘だろ?」


彼女のその言葉で再び食べることに集中しだした藤真は、先ほどのやりとりなどすっかり気にしていないようで。
俺は名字からトングを取り返して、その後も好きなように肉を焼き続けた。


「あ、やっぱり・・・花形さんが焼いてくれた方が、おいしいです」
「・・・そうか」


嬉しそうに笑う名字を見た俺は、これも食べていいぞとまた一枚肉を彼女に運んだ。



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