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手伝いしましょう
「・・・ん?」
職員室に寄った帰り、ちょうど反対側のドアから出てきたのは名字でその両手いっぱいに教材が積まれていた。
考えるより先に体が動いた俺は、歩き出していた彼女を追う。
「日直か?重いだろ」
「あ・・・花形さん」
すぐに追いついてその肩を掴めば、荷物ごとゆっくりとした動作で俺を振り返った名字。目線ギリギリまであるそれを見てこんな量を女子に運ばせるなんて、とこれを持たせた教師に呆れる。
「ちゃんと前見えてるのか」
「いち、おう」
「教室まで運ぶんだろう?俺が持つよ」
そう言って手を伸ばせば、眉を下げた彼女が「このくらい、運べます」と言ってゆるく首を振った。その時、上の方にある教材がバランスを崩したが、落ちる前に俺がなんとか押さえる。
「・・・無理するな」
変な意地を張る彼女に内心ため息をつきながら今度は何か言われる前に、その手の中から半分と少しを掻っ攫う。
「ありがとう、ございます」
後からついて来る名字の顔は見えないが、礼を言いながら笑っているのが背中から感じられて俺の表情も思わず緩んだ。
「じゃあまた、昼に」
「はいっ」
「ちゃんと授業受けるんだぞ」
「・・・はいっ」
その間はなんだと彼女の頭を撫でてから、俺は自分の教室に戻った。何故かいろんな奴に視線を向けられていたが、それらを一切気にすることはなかった。
(・・・そういや、まだ噂が消えてないんだったか)
次の授業が始まってからふと思い出したのは俺たちが付き合っているという噂。しかし気にするだけ無駄だと考え、俺は教師の話に集中することにした。