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たまには皆で
「今日はやけに空いてるな」
「いつもこうだと良いのによ。名前、どこ座る?」
「・・・花形さんの、よこ」
「あっそ」
今日は学食にしようかと来てみれば予想よりも人は疎らで、とりあえずそこらで適当に腰を下ろした。
俺の隣には名字が向かいには藤真が座って、それぞれ持参した弁当を広げる。相変わらず旨そうに昼飯を食べる二人を眺めながら、俺もゆっくりと箸を進めた。
「お前ら・・・本当にいつも一緒に食ってんだな」
だんだん冷えてきた気候だとかもう少し先にある学力テストだとか、そういう取り止めのない話をしていると、俺たちのすぐ近くに大きな影が近づいてきた。
「永野と高野・・・おう、一志もいるのか。ここ空いてるぜ」
座れよ、と藤真が自分の隣のイスを引いた。
なんとなく周りを見渡せば、かなりの視線が向けられている。
まあ、デカイ男ばかりが集まればそれなりに目立つし、バスケ部なら尚更のことだった。それは人気があるから・・・らしいが、実際のところこれだけ注目を集める理由の殆どは藤真が関係してるんだと俺は思っている。
「名字の弁当は自分で作ってんの?」
名字の隣に座った永野が彼女の弁当を覗きこんで聞くと、間髪入れずに答えたのは何故か本人じゃなく藤真だった。
「そんなワケねーって」
こいつほんと料理下手なんだぜ、と続ける藤真になんでお前が答えるんだと俺は口を開きかけたが、それよりも早く隣の彼女が反論した。
「む・・・自分で作る日だって、あるよ!」
「どーせ卵焼きだけだろ?」
「ち、違・・・ぐす」
「・・・ふたりとも落ち着け」
図星をつかれたのか言い淀んだ名字の頭にぽんと手を乗せる。
大人気ないぞ、という意味も込めて向かいに視線をやるが、藤真がすでに昼食を再開していたので空振りに終わってしまった。
「・・・ほら、名字。好きなのやるから機嫌直せ」
そう言って彼女に弁当を差し出したのは長谷川で。
話を振った長野や関係ない高野までもが同じように名字にオカズを選ばせているのを見て、みんな随分と彼女を気にかけているなと感じた。
「全部おいしい、です!」
食い意地の張った彼女につい甘くしてしまうのは俺が世話係だからなのか、それとも・・・。
「あんまり名前を甘やかすなよなー」
藤真がボソッと呟いたそれに、俺は小さく苦笑した。
(たまには、こういう昼食も悪くない)