俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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罪な男




放課後、日直の当番だった俺は体育館へ向かうのに少し急ぎ足になっていた。

ふと視界に入ったのは壁にピタリと背をつけている名字で。彼女が何をしてるのかは分からなかったが、もう少しで部活の時間になるため、とりあえず声をかけようとそっと近付いた。


「名字、そんなとこで何してるんだ」
「・・・っ!」


ぽんと彼女の肩に手を置けば、予想以上に驚かせてしまったみたいで少し申し訳なく思った。


「は、長谷川さん・・・こんにちは」
「ああ。で、お前は何を見てたんだ・・・ん、花形か?」
「しっ!」


壁の角から頭を出して名字が見ていた方へ視線をやれば、そこには同じ部活の友人と、自分のクラスの女子(たぶん)がいて。

あの雰囲気はただの雑談というワケではなさそうだ。


(・・・告白、か?)


「花形もやるな」
「やっぱり、花形さんって・・・人気です、よね」


視線を花形に向けたままつぶやいた彼女は眉を下げて不安そうな顔をしていた。俺がからかうように「気になるのか?」と聞けば「う・・・」と唸ってから僅かにこくんと首を縦に振るので、可愛いやつだと内心で笑った。




「お前ら、何してんの?」


盗み聞きしてたなんて知られるわけにもいかず、花形とその女子が去るまで名字とその場でじっとしていたら、通りかかった藤真に不審な目を向けられた。
特に弁解しようともしない俺のとなりで、名字は少し慌てたように状況を説明しようとしていたが、藤真はひらひらと手を振ってそれをやめさせる。


「そんなことより、もう部活始まるぞ。急げよ」
「う、うん」
「・・・ああ」


ちらりと視線を下にやれば同じように俺を見ていた彼女と目が合い、そのまま肩を竦めてみせると、小さく笑みを返された。



「長谷川さん、さっきの・・・勝手に聞いてたこと、内緒に、してくださいね」


練習の合間に俺のすぐ側まで来てそう言った名字に分かってる、と一言。誰にっていうのは分かりきっていたから、聞くことはしなかった。

その後も彼女を見ていたら、その眼差しの大体は花形に向けられていて。本当にこの子はあいつの背中ばかり追いかけてるんだなと考えて、口角が上がると同時にどこか羨ましさも感じられた。


(・・・罪な男、だな)


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