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わざとじゃないですから
(あの、背中は・・・)
今日最後の授業が終わって放課後の部活に向かう途中、廊下の先に見つけたのは大好きな先輩の後ろ姿だった。
「花形くんッ!待って・・・」
声をかけようとした私よりも早く誰かが近付いたと思ったら、その人は花形さんの腕を掴んで階段の影にひっぱった。私もとっさに身を潜める。
盗み聞きが良くないのは分かってるけど、自然と聞こえてしまう二人の会話に私はどうすることも出来なかった。
「・・・またお前か」
「私、本当に花形くんのこと好きなのっ」
この間のお昼に花形さんを呼び出してた人だろうか。恋愛やら人付き合いやらに疎い私でも、さすがにこの状況が楽しいものじゃない事くらい分かる。
必死な様子のその人に花形さんはどう返すのかなと、ダメとは分かりつつ耳をすませた。
「何度も言うけど、付き合うとかは考えられない」
いつも私と話してる時とは全然違う花形さんの雰囲気にびっくりする。その冷たい声が私に向けられてるわけじゃないのに、少し怖いと思った。
それと、やっぱり花形さんは人気があるんだなぁ、と改めて心の中で感心もした。
「・・・じゃあ最後にひとつ聞いていい?」
「何を」
「あの子が好きなんでしょう?」
(あの子、って・・・?)
女の先輩の口からでた人物が誰だか気になって、少し身を乗り出した。花形さんに好きな人なんているのかな。もしそうなら、ちょっと・・・嫌、かもしれない。
(・・・ひっ!?)
花形さんが何かを言ったと同時に誰かの手が肩にぽんと乗せられて。
「まさか、妹みたいな子だよ」
驚いた私がそれを聞き取ることは、かなわなかった。