俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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苦手なんです




「集合!」


いつも通りその日の練習を終えると、体育館の中には一際大きな声が響いた。


「えー次の土曜は前から言ってた通り、練習試合だ」


部員たちの前で腕を組む藤真は、普段は横暴だったり我儘だったりするがこういう場面では一切それらを見せず、監督として厳しい表情を保っていた。


「で、相手がどこか言ってなかったんだけど」
「おお、どこなんだよ藤真」


聞き返す高野を一瞥してから、周りを見渡す藤真。


「陵南だ」


部員たちの中に少しのざわめきが広がった。なんせ、陵南は数ヶ月前のインターハイ予選で三位となった中々の強豪だからだ。

とはいえ本音を言えばうちとの実力差はあまりないと思っている。まさに、練習試合の相手として相応しいだろう。
まあ、柱の魚住やディフェンス力のある池上がいないとなると、こちらが優勢かもしれないが。


(・・・ん?)


藤真が当日の流れを説明してるとき、ふいに違和感があった。振り返って斜め後ろを見れば、俯いた名字が俺のTシャツの裾をそっと掴んでいる。


「どうした」
「ぅ・・・花形、さん」


周りに聞こえないよう少し屈んで小さな声でそう聞けば、彼女も周りを気にして俺の方に顔を寄せた。俺たちは後ろの方にいたから、誰もこちらに気付きはしない。


「わた、し、陵南の人・・・すっごく、苦手なんです」
「・・・知り合いでもいるのか?」


彼女に問うてからそういえばと、いつかの祭りの日のことを思い出した。名字が迷子になった時の話だ。

確か陵南のやつらに保護されたんだったなと夏の終わりを少し懐かしんでいると、眉を下げて困ったような顔を見せる名字。
彼女が人一倍の人見知りとはいえ、こんな風に特定の誰かを苦手としている様子に俺は正直驚いていた。


「お前から近付かなければ、そうそう相手チームの選手と関わることは無いと思うぞ?マネージャーは特にな」


苦手な奴と会うのは誰だって嫌だろうが、練習試合なのだからマネージャーには居てもらわないと困る。
しかしどうにも放っておけなくて「俺の後ろにいればいいから」と言って彼女の頭にぽんと手を乗せた。



(それにしても・・・苦手な奴って誰だ)



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