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親ガモの焦燥
土日問わず毎日練習ずくめの俺たちにも、たまのオフがあったりする。そんな日は空いた時間で勉強したり家で寛いだりと様々だったが、今日は買い物にでも行こうと思い立った。気まぐれもいいところだが。
「・・・花形?」
「よう、長谷川」
ふらりと覗いた本屋でばったり出会した長谷川も俺と同じでただなんとなく街に繰り出していたらしく、それならと一緒に行動することにした。
「せっかくの休日に何やってんだろうな、俺たち」
俺が自嘲的な笑いを浮かべると、長谷川もそれに頷いた。
他の部員も大概同じような事をしてるんだろうな、なんて話しながら俺らの足は自然とスポーツショップに向かっていて。結局俺たちの頭の中にはバスケに関することしか無いのかと小さく笑った。
「あれ・・・藤真じゃないか。隣にいるのは、名字?」
急に足を止めて一点を見つめる長谷川にならって俺もそちらを見ると、二人並んでアイスを食べている姿があった。
「相変わらず、仲良いんだな」
「・・・ああ」
「声かけるか」
そう言って一歩を踏み出した長谷川の肩に手を置いた俺は「やめておこう」と頭(かぶり)を振る。別に会いたくないとかそういうのではなくて。
楽しそうに笑ってる名字の顔が見えたから・・・邪魔をするのもどうかと思っただけだ。
「こう見ると幼馴染とはいえ、兄妹ってよりは恋人みたいだな」
「・・・」
「それに名字はやっぱり、藤真の前だと表情が違う。花形もそう思うだろ?」
(名字、口元にアイスついてる・・・気付け、藤真)
「・・・花形?」
二人に視線を向けたままぼうっとしていた俺は自分の名を呼ばれてようやく我に返る。
どうかしたのか、と首を傾げる長谷川になんでもないと答えてから「行こうか」と続けた。
二人の姿が見えないところまで来て、それまで何も聞かなかった長谷川が口を開いた。
「・・・そういえば」
にやりと口角を上げた表情が、こいつにしては珍しいなと思っていると。
「名字と付き合ってるのは、お前だったよな」
少し前までの噂が本当じゃないことを知っていてワザと掘り返す長谷川。はたして彼はこんな性格をしていただろうかと俺はしばらく考えていた。
(兄妹より恋人に見える・・・か)
長谷川から名字と藤真がそんな風に見えると聞いて・・・少し焦る自分がいた。