俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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口からでまかせ




「いいか、付き合ってる人がいるって言うだけでいいから」
「・・・バレません、か?」
「言い切れ」
「う・・・はい」
「いい子だ。俺も見えないとこにいてやるから」


いつもより強く彼女の頭を撫でた。

長谷川のアドバイスを名字に伝えた俺は、その日のうちに解決させておこうと提案した。こういうのは何事も早めに対処すべきなんだ。



彼女と何度かシミュレーションしてから、例の男子生徒を学校裏の目立たないところに呼び出す。
約束した時間ちょうどに現れたその男は、俺の想像よりも男前で、なかなか爽やかな見た目をしていた。何か部活をしているのか身長もすらりと高く女子から人気がありそうだと、死角になったところからジッと眺める。



「名字・・・呼び出しって、こないだの返事?」
「ぅ・・・そ、そうです」
「考えてくれたんだ」


すでに半泣きで顔を真っ赤にしている名字の姿からはバスケ部に入ってすぐの頃を彷彿とさせた。
はじめは俺でさえ目も合わせて貰えなかったと数ヶ月前の事を思い出して懐かしむが、今はそれどころじゃないだろうと目の前の二人に意識を戻した。



「あの、わた、私・・・無理なんです。その、」


(・・・頑張れ、名字)


「その・・・付き合ってる人・・・が、いるん、です」
「・・・やっぱり、噂は本当だったんだ」
「うわ、さ?」


目を伏せた彼が突然言ったそれに彼女は固まり、思わず聞き返していた。それはいったいどんな噂だと俺も聞き耳を立てる。


「バスケ部の藤真さんと付き合ってるって有名だよ。違う?」
「健司くんは、ただの、幼馴染・・・です」


ボソボソとそう伝える名字に、今度は男の方が驚いてるようだった。一拍を置いて彼女を見つめると、「ちなみに、誰か聞いていい?」と悲しげな表情をしていた。


「だ、誰って・・・」


(まずい・・・上手く躱せよ、名字)


まさか「誰なのか」まで聞かれると思っていなかった俺は、無意識の内に強く握っていた両の掌に汗が滲んでいるが分かった。


(適当に他校のヤツってことにでもしとけ・・・!)


どう言うんだとハラハラしながら名字を見守っていると、チラッとこちらに視線をやった彼女と目が合った。ような気がした。


名字が唾を飲んで喉を鳴らしたのが聞こえる。



「は、は、花形さんですっ」



その口から飛び出した名前が自分のものだと理解するのに、冗談じゃなく10秒は掛かった。




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