( 37/80 )
ぜんぜん終わらない
名前が俺の家に来るのはべつに珍しいことではなくて、未だに近所だからとしょっちゅう互いの家を行き来したり夕飯を一緒に食べたりもしていた。
「健司、名前ちゃんが来てるわよ」
「・・・なんで?」
リビングに向かうと、俺の母親が焼いたアップルパイを食べている名前がいた。
「なんだよ名前・・・今日は部活ないぞ」
「知ってる、もん」
頬っぺたを膨らませて俺を見る名前は、おおよそ小動物にしか見えない。
俺らの分の紅茶を淹れた母親が「買い物してくるからお留守番しててね」と言い残して家を出たので(適当に返事する俺と、笑って見送る名前)、リビングには俺たちしかいなかった。
「あの、ね・・・お願いがあるの」
持ってきた手さげ鞄を抱きしめて俺を伺う名前を見て、大体のことを察した俺は、こいつが何かを言う前に盛大なため息をついた。
「何が残ってるんだよ数学か?・・・しょーがないから手伝ってやる」
「け、健司くんっ」
「あーほら、さっさと片付けるぞ。ったく、夏休みの宿題くらい終わらしとけよな」
呆れた顔をしながらも、よしよしと頭を撫でてやる。白紙のまま手つかずの宿題を並べて笑ってる名前は、まさしく『バカな子ほど可愛い』状態だ。
こいつの頭が弱いのは俺がなんだかんだこうして甘やかすからなんだろうな。
(・・・花形が知ったらどんな顔されるか)
すっかり保護者ポジションが定着してしまっている花形には、名前の勉強やその他も任せっきりにしている。
去年までは俺が面倒を見てたワケだから、悪いなと思う気持ちが無いことも無いんだけど。アイツもアイツなりに楽しんでるのは知ってるから、特に何も言わなかった。
「なんで花形んとこ行かなかったんだ?」
「だって、こんなこと・・・健司くんにしか、頼れない、もん」
「・・・そっか」
馬鹿だとか何とか言ってるけど、こうして俺を頼ったりいつまでもくっついてくる名前を溺愛してしまっているのは、ちゃんと自覚してた。
そして、花形が俺と同じ境遇に片足どころか両足をつっこみ始めている事も。
(さすが、俺の親友だよなー)