俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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去年のこと




「・・・お疲れ、さまです」
「よし、休憩だ。みんなちゃんと水分補給しろよ」


炎天下の中、体力作りのために外周をして今やっと終わった。試合で勝つために必要な事とはいえ、やはりこの暑さだとしんどさも一入だった。

俺は名字から渡されたボトルを手に日陰に座り込む。流れる汗は拭ってもキリがないのでそのままにしていた。


「そういえば今日・・・インターハイの1回戦だな」


休んでいると、高野が思い出したようにポツリと言った。
転がってきた野球部のボールを投げ返そうとしていた藤真の動きが一瞬止まる。


「湘北の相手は豊玉らしい」


それを聞いて近くにいた俺や長谷川、永野は驚いて高野の方を見た。

豊玉といえば、去年俺たち翔陽がインターハイで敗れた相手だ。この中で唯一試合に出ていた藤真が相手の肘で怪我をし、途中退場になったのはまだ鮮明に覚えている。



「翔陽には冬の選抜が全てだ」


もう関係ないと言う藤真は汗でも流すんだろう、俺たちに背を向けて水道がある方に歩いて行った。


「藤真の傷って残ってるんだよな」


永野が言ったそれに答えたのは、意外にも名字だった。


「残ってます、けど・・・本人は気にしてません、よ」
「そうなのか?」
「豊玉の人、ワザとじゃない、し・・・試合後に謝られたって、健司くんが、言ってた・・・ので」


そのままタオルを持って藤真を追いかけて行った名字。後から聞けば、どうやらあの時、藤真の母親と試合を観ていたらしい。


豊玉のプレイがワザとじゃないとか云々は別にして、神奈川の代表として勝ってほしいと、俺は湘北の連中に思いを馳せた。


(・・・俺たちに勝ったんだ。初戦負けなんて、許さん)



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