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迷子は誰だ
「わあ・・・健司くん、りんご飴っ」
「バカ、さっき綿あめ食べただろ?同じようなもんばっかじゃねーか。次はたこ焼きだって」
「・・・お前もさっき、いか焼き食べてなかったか」
あれもこれもと色んな出店に目移りする藤真と名字は、落ち着きなくはしゃいでいて。
気の合うメンバーで神奈川の大きな祭りに来た俺は、早々にこの二人の世話役へ徹していた。
普段はクールで大人然としている藤真も、食べ物の事となると途端に子供っぽさを見せる。
それが名字と一緒なら尚更の事だった。
「・・・射的があるな」
「いいな、やろう」
「勝負だ」
そんな俺たちを横目に長谷川、高野、永野たちはそれぞれ楽しんでいて、まったく損な役回りだと溜め息をついた。
「花形!かき氷食わないか?」
「ああ、いいかもな」
「色んな味があるけど・・・お、ブルーハワイにしよ。花形は?」
藤真に聞かれて少し遠くにあるその出店のメニューを眺めた。こういう時、自分の身長は役に立つものだと感じられる。
「俺は・・・宇治金時かな」
「イメージ通り」
くく、と小さく笑う藤真。
それはどんなイメージなんだと聞いてみたいところだったが、どうせ碌な事を言わないだろうと思いやめることにした。
「・・・あれ、名前は?」
気づいた時にはさっきまで隣にいた名字の姿が無くなっていて、辺りを見回しても彼女らしき人は見つからなかった。
(・・・まずいな)
人見知りの彼女のことだ、ひとりになってしまうと不安で仕方がないだろう。藤真と顔を見合わせた俺は、他の三人にも彼女の迷子を伝えるとすぐに捜しに動いた。
(頼むから近くにいてくれよ・・・)
妙に騒ぐ心に気づかないフリをして、彼女の顔を思い浮かべていた。