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子ガモの成長期
「どうした名字?」
「あ・・・花形さん、いや、なんか」
「ん?」
コートの隅にしゃがんで丸まっている名字が気になって声をかけると、眉間にシワを寄せたまま顔を上げた。
腹でも痛いのか、と聞いてみるが力なく首を振るばかりだった。
「気分が悪いなら保健室に行った方がいいぞ?連れてくか?」
「いえ、違う、んです」
「・・・何か理由があるのか」
「実は・・・」
そう言ってゆっくりと立ち上がった名字は、いつも丸くなっている猫背を伸ばした。そのまま隣に来てその背を比べる動作に、俺はふと気づく。
「背、伸びたか?」
「みたい、です」
「へえ・・・」
せいぜい155前後だった名字の身長が160くらいには伸びている気がした。
その証拠に、前よりも話す時の距離が近くなったような感じがする。
「なるほど、成長痛か」
「です・・・かね。なんか、関節が、痛くて」
「俺も中学の時はそうだったな」
「どうかしたのか?」
俺たちの様子を気にしてか藤真がすぐ横に立っていた。
顔を歪める名字を見つけて、心配そうにその頭に触れた。
「朝からしんどそうだったけど・・・」
「成長痛だと」
「・・・は?」
パチリとその大きな目を瞬きさせて、名字を覗き込む藤真。なんでもいいがちょっと近すぎないか?と、俺はその距離が気になっていた。
「背がね、すごい伸びてる、みたい」
「なんだ・・・そんなことかよ」
「む・・・そのうち健司くんなんて、抜かしちゃう、かもね」
「気をつけろよ、藤真」
俺は藤真の肩に手を乗せてにやりと微笑む。名字も同じように笑っていた。
「・・・お前ら生意気」
こんな時ばかりは、自分の大きすぎる身長も悪くはないと思えた。