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握手して下さい
「陵南は強い・・・」
点差が開きベンチに温存された魚住を見ていた俺は、隣の藤真の方を向いた。
陵南と武里は去年まで同じベスト4で、実力に差はない筈だった。それがこの1年でこれ程まで違いが出たことに驚かざるを得なかった。
「あの・・・翔陽の藤真さんですよね・・・?」
そんな声が聞こえて俺や長谷川、名字が後ろを振り返る。もちろん、名指しされた当人の藤真もその女子に気がついていた。
「あっ・・・握手して下さい!」
顔を真っ赤にして差し出されたその手を、藤真は無言でスッと握った。目的を終えた女子たちは「キャーッ」と盛り上がって足早に去っていく。
「・・・」
「さすが藤真・・・」
長谷川が言ったそれに、黙っていた俺も頷いた。まるでアイドルの握手会の様な光景に、ここが試合会場だとうっかり忘れるところだ。
「なんだよ、名前」
さっきまで俺のすぐ横にいた名字が、藤真の隣に移動してその腕をとった。
「う・・・なんか、やだ」
「・・・嫌って?」
彼女のその行動に俺たちは首を傾げる。ただ一人藤真だけはニヤリと笑い、名字の頭を撫でていた。
藤真にぴったりとひっついて離れない姿は試合終了まで変わらず、俺はなんとなく隣にいない存在に違和感を感じていた。
その後、湘北と海南の試合を見に行く途中で「海南の勝利も敗北も、見たくはない」と言って名字をくっつけたまま帰った藤真。
「名字の様子が、おかしかったよな」
「・・・大方あの女子たちに妬いたってところだろ?」
俺がそう言うと、「通りで藤真が嬉しそうだったのか」と納得した様子の長谷川。
残された俺たちは二人を見送ってから、歓声で盛り上がる会場に足を踏み入れた。