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お供します
「別についてくる必要は無いんだぞ?」
「私が勝手に、行きたいだけ、です」
「額の怪我なんて大したこと無いのに」
「だって・・・心配です!」
「・・・そう、か」
試合後のミーティングを終えた帰り道、割れてしまったメガネを修理するために俺は名字と二人で電車に乗っていた。
無くてもまったく見えないわけじゃないが、どの道必要になるものなので早いうちに行こうと思っていた。
「そこ段差、です」
「ああ・・・」
「私の肩、ちゃんと掴んでくだ、さい」
「・・・」
普段の名字は大人しくてあまり自分をだす事がないため、一緒に行くと言って聞かない彼女の様子に驚く部員は多かった。その中には俺や藤真も含まれている。
「それなら2人で行ってこいよ」と送り出した藤真は何か企んでいるような顔をするから、俺は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしたのだった。
「名字、そんなにくっつかなくても・・・」
「何かあったら、どうするんです、か!」
メガネを修理に出し終えた後、絶対に帰宅するまで見届けると言う名字は俺がどう断っても聞く耳を持ちはしなくて。
とうとう押し切られた俺は、彼女に付き添ってもらいながらぼやけた視界でゆっくりと家を目指した。
「・・・助かった、ありがとう」
「はい。お疲れさま、でした」
軽く頭を下げる彼女に「気をつけて帰るんだぞ」と何度も念を押してから、その背が見えなくなるまで見送る。
試合に負けたばかりだというのに、今はその感慨に浸るよりも名字が無事に帰宅できたかどうかのほうが心配だった。