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偵察しましょう
ふと見た時計は約束時間のちょうど10分前を指していて。それと同時に、焦った様子の名字を見つけた。
走らなくていい、そう言ってやりたかったが本人にそれを聞く余裕は無さそうだった。
「お待たせ・・・しました!」
「いや、俺も今来たところだよ」
待ち合わせた駅の改札で息を整える彼女と俺は、その少し後に来た電車に乗って、とある試合会場に向かう。
「2回戦は角野と湘北、でしたよね」
「ああ」
車窓に流れる景色を眺めていた俺を見上げる彼女は、部活でも使っているスコアブックを片手にどこか気持ちが高まっているように見えた。
聞けばもともとスポーツ観戦を好んでいたらしい。
(・・・意外だ)
そういえば、インターハイ予選の2回戦を観に行きませんか、そう言い出したのも名字からだった。
それを断る理由なんてあるはずもなく、俺は二つ返事で了承したのだが。
「藤真は誘わなかったのか?」
「一緒に行こうって、言ったんです、けど・・・」
電車を降りて会場まで歩いている途中なんとなく気になって尋ねてみると、どうやら用があると言って断られたらしい。しゅん、としている彼女の頭を撫でてやると口元だけだが小さく笑っていた。
藤真の代わりとはいえ俺を誘うあたり、もう随分と懐いてくれたものだと感慨を覚える。
「早く、行きましょう」
「あんまり急ぐと転けるぞ」
「・・・うわッ」
「おい、」
言ったそばから段差に躓いた名字をなんとかギリギリで支える。
腕を引いた時の軽さに驚くが、とりあえず怪我をしなくて良かったと安堵のため息をついた。
「気をつけろよ?」
「う・・・ハイ」
まったく目を離してられないなと、心の中でそう思った。