俺と彼女はカルガモ親子 | ナノ
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やっぱりやめた




その日、午前の授業が終わって一番に俺のところに来たのは、今朝も朝練で会ったばかりの藤真だった。


「やめようと思って」
「・・・何を」
「離れすぎてて嫌になった」
「一応聞くが・・・名字のこと、だよな?」
「それ以外にないだろ」


藤真が名字に近づくなと言い出してから早いものでひと月が経っていた。
今やすっかり俺といることが定着している彼女は、もう間も無くこの教室に現れるだろう。


「もうバスケ部には慣れたし、俺だけ避けられるのおかしくない?」
「・・・お前が言い出したんだろ」
「そうだけど。とにかく、もう終わり」


その勝手な言い分に呆れてため息をつくと、藤真は不満げな顔で俺を見ていた。なんで俺がそんな目で見られなくちゃならないんだと言い返したい所だが、機嫌を損ねるのも本意ではない。

(・・・藤真のこれは今に始まったことじゃないか)




「・・・花形さ、ん」


小さく聞こえた声に、俺と藤真は同時に教室の入り口を振り返った。バスケ部以外に慣れない彼女は、こちらを見て少し不安そうな顔をしている。


「健司くん?」
「名前、俺に近づくなって言ってたのやめたから。もう禁止」


藤真がそう言うと、喜ぶんだろうなと思ってた俺の予想に反して彼女の表情はあまり変わることがなかった。
うん分かった、と一言返すと俺の手を引いてさっさといつもの中庭に向かった。そのあっさり加減に驚く。


去り際の落ち込んだ様子の藤真を見て、あのままで良いのか?と名字に聞いてみた。


「・・・いいんです。健司くん、私のためとはいえ花形さんを・・・困らせてばっかり、だから」


俯いたままそう言う彼女が、俺を気にかけてくれていた事がなぜだか無性に嬉しくて。
にやける口元を隠すために彼女の頭を撫でて、こちらを見上げられないようにした。



(・・・後で藤真をフォローしとかないとな)


拗ねて俺に当たってくるだろう親友を思い浮かべて、今度は苦笑いになった。



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