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兄ガモの哀愁
「花形さん、こんにちは」
「お、お疲れ様です花形さん」
「あの、今日は調子いいです、ね」
ぴょこぴょこ がーがー
子ガモが親ガモについてくみたいに、常に花形に引っ付く名前。ひと月前までが嘘のように懐いてる姿になんか複雑な俺。
「名字!テーピング頼む」
「は・・・は、い。すぐ、行きま、す」
(・・・)
だがそれも他の部員だと違うようで、そこは少しホッとした。
(いや、人見知りは克服させたいけどさ)
でもさ、確かに名前を花形に託したけど・・・ついでに俺に近づくなって言ったのも俺自身なんだけど、こんなに二人が仲良くなるなんて思わないだろ。
「最近のマネージャーは花形にベッタリじゃないか?」
「キョドリは相変わらずだけどな。パッと見は兄妹か」
「・・・いや兄妹ってよりは、」
好き勝手言ってる高野、永野、長谷川の三人の方をキッと睨みつける。それに気付いたのかそうじゃないのか、こちらを見た長谷川と視線が合った。
「・・・どうした藤真」
「なんでもない」
首を傾げる長谷川と他二人。さっさと練習に戻れよと言って背を向けた俺。
「花形と名字は親子じゃないか」
「たしかにな。そういや、兄は藤真だったっけか」
「ベタベタだった妹に兄離れされて拗ねてるってところだな」
「「・・・言えてる」」
後ろで聞こえた会話は、聞こえないフリをしておいた。
(・・・あながち間違ってないから腹立つんだよな)