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カルガモ親子
「・・・あ、花形さん」
移動教室の途中、階段を登っていると名字が上から降りてきた。俺に気づくと直ぐに駆け寄ってきて、こんにちはと挨拶をしてくる。
その様子からはもう、距離を置いたような感じは見受けられない。
「またあとでな」
「は、い」
彼女はどこか楽しそうに返事をして、階段を降りていった。
「花形君、あの子が来てるよ」
「マネージャーだっけ?」
「・・・ああ、すぐ行く」
昼休みになると、クラスメートの女子たちが名字を見つけて知らせてくれた。俺は自分の弁当を掴んで立ち上がる。
「付き合ってるわけじゃないんだよね」
「ああ。部活の後輩だが」
「それにしてはベッタリじゃない?」
「いつも一緒にいるよね」
どうして?と聞かれるが、わざわざ藤真に頼まれたからだと教える必要もないだろう。
「世話役なんだ」と、彼女たちにそう言って名字の元へ急いだ。
「まるでカルガモの親子みたい」
「なんか見てて可愛いよね。どっちも」
教室を出た後にそんな事を言われてるなんて思いもしない俺たちは、カルガモよろしく中庭に向かって行進していた。