噂の南くん
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「なあ、今日バスケ部の練習見に行かん?」
「あー!あんたどうせ南君目当てやろ。ミーハーやなあ」
「ええやん。かっこよかってんもん〜」
朝から廊下では、同じ学年の女の子たちがとってもソワソワしている。その理由は言わずもがな、先日のバスケ部の表彰式のせい。
見目がよくてスポーツも出来るバスケ部期待の新人が女の子の話題にならないわけが、ない。もともとあった人気に更に拍車がかかっていた。
「あっという間に、有名人だね南君」
「あー・・・みたいやな」
教室の入り口でこちらの方を見ながらきゃっきゃしている女の子たちをチラリとみて、はぁ、と深い溜息をつく南君。その顔からは疲労が見えた。
「もしかして嫌だったりするの?」
女の子にモテて溜息とは、まさに勝ち組ではないだろうか。なのに心なしか浮かない表情で彼は自分の机を睨んでいた。
「嫌っていうか・・・なあ」
「?」
「俺、こういうの慣れてへんし、どう反応したらええんかも分からん」
「でも嬉しいでしょ?」
そう聞いても彼は首を振るだけで、なかなか現状に困っている様子。女の子たちは相変わらず、南君に近づけやしないかとこちらの様子を伺っていた。
「正直、こんな風に騒がれても困るだけや」
「へえ。そういうもんなの?」
「そういうもん」
「スタメンでもあるまいし、試合にも出とらんかったのに」と言うと、机に突っ伏してしまった。
異性に注目されたりモテたり、そういう経験がない私にはその苦労はイマイチ理解し難くて。
その時は、まあ人気者にもそれなりに気苦労はあるのだなと思うくらいだった。
「ほんま、名字があの女子たちみたいじゃなくて良かった」
「ああ、うん・・・そうだね」
南君がすごく疲れた様子で私にそう言ったのは、放課後のことで。その日一日、出来るだけ教室から出たくないという彼の隣で話し相手になっていた私も、さすがにこれは疲れるなと、廊下から未だこちらを覗く女の子たちを見て溜息がでた。私だってこれだけずっと見られ続けて羨ましいなんて思いはしない。
「これから部活だよね」
「ん、煩いのがおらんかったらええんやけど」
「・・・ガンバッテクダサイ」
一種のアイドルのような存在になりかけているその背中に手を振り、どうか彼が心中穏やかにプレー出来ることを祈るのみだった。
南君に耳栓でもプレゼントしようかなんて、わりと本気で考えながら、私は家路についた。