南くんのとなり | ナノ
キミと甘やかな想い出
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なかなか名字に気持ちを伝えられないまま、高校卒業までどんどん日が少なくなっていった。それはつまり、僕に残された大阪での時間があと僅かだという事で。このままは嫌だ、そう思うくせに行動出来ない自分にいい加減呆れてさえいた。

そして特別寒かったあの日、僕は名字に告白をした。もちろん、愛の告白というやつを。ずっとずっと前から好きだった彼女にようやく気持ちを言う気になったのは、その前日に懐かしい夢をみたからかもしれない。



「はじめまして……名字 名前です」


名字が大阪に引っ越してきて、僕のクラスに転校してきたのは中学二年の時だった。担任に紹介されてる間は、(大人しそうで可愛らしい子やな)なんて心の中で他人事のように呟きながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

仲良くなったのは、名字が僕の隣の席になったからだった。


「えっと・・・」
「土屋っていいます。お隣さんやし、よろしくなあ」
「っ・・・うん!」


かなり緊張していた様子の名字は、僕の言葉に一瞬驚いた顔をして、それから嬉しそうに返事をした。照れ屋で人見知りだった彼女はなかなかクラスに馴染めなくて、それには言葉のコンプレックスもあったみたいだけど、とにかく、その頃困ったりした時は必ず僕を頼ってくれていた。
そんな名字の隣にいて、少なからず優越感を持っていたのは確かだ。


「名字、ええの持ってんなぁ」
「あ・・・コレ土屋君も好き?」
「好き」
「じゃあ、おひとつどうぞ」


ちょこん、と僕の手に乗せられたのは小さくて黄色い包みの飴玉。お礼を言って口に放れば、程よい甘みとレモンの酸っぱさが広がった。予想通りの味だったけど、予想以上に美味かった。
それは、目の前にいる名字が僕に向かって眩しいほど綺麗に微笑んだからだろうか。


「土屋君と・・・好きな味が一緒で、嬉しい」


ただの飴玉が、その日から僕の特別になった。同じように、名字から片時も目が離せなくなった。
彼女の言葉はいつまでも僕の心に残って、何度も頭の中で繰り返された。







名字のバイトが終わるのを待ち伏せする気は無かった。ただ本当に直前までどんな顔をして会えばいいのか分からなかっただけで、気が付いたら店の前で彼女と向かい合っていた。

一緒に歩きながらもどう切り出そうかと悩む僕。自分がこんなに臆病な男だとは思わなかった。以前は何事ももっと強引に出来ていた筈。
・・・これがバスケなら、何も考えなくても簡単に点を入れられるのに。


「・・・もしかして、具合でも悪いの?」


心配してくれる声に軽く頭を振った。
名字は、僕の煮え切らない態度に首を傾げながらも、絶対に嫌な顔なんてしない。本当に心配している表情で、そっと見上げていた。


「・・・ホンマはな、名字に言いたいことがあって・・・会いに来てん」


辺りに雪が降り始めたとき、背を押された気になって、ようやく心を決めた。両手をグッと握り締める。



「名字のことが・・・好き、です」


もうずっと、何年も伝えられなかった言葉。たった二文字のそれを、僕はようやく口にした。男らしくはないけどこれが僕の・・・土屋淳の精一杯だった。

なぜなら、そのあとの、彼女の答えを知ってるから。


「ありがとう・・・土屋君」


僕の告白に驚いて、そして泣きそうな顔をした名字。ああ、決して困らせたい訳ではないのに。

彼女と僕の間に少しだけ沈黙が続く。そして程なく、小さな足音と一緒に名字が僕のすぐ側まで近付いた。
覚悟を決めて、彼女の言うことに耳を傾けた。


「ごめんなさい・・・私ね、好きな人がいるんだ」


相手が誰かなんて聞かなくても分かってた。彼女のことを見ていれば、彼女のことが好きならば、自ずとその視線の先には気付く。そして、それが両想いであることにも。

でも、たとえそうだったとしても。目の前で告白に頬を染める今の名字だけは、僕のものだと微笑む。ありがとうと笑った彼女を、過去の記憶のようにしっかりと心に焼き付けた。


「・・・先に謝るから許してな。ごめん」
「え?」


これが最後だ。はらはらと降りそそぐ雪の中、名字をそっと抱き寄せた。小さく驚く声には気付かないフリ。可愛すぎるのが悪いんだ。
「土屋君っ」と照れる彼女に笑いながら、ぎゅ、と抱きしめる。そしてすぐにその手を緩めた。


「ずっと好きやった。名字が他の誰を好きやとしても・・・僕は、名字を好きになって良かった」


不思議と胸の内はスッキリしていた。言いたいことはちゃんと伝えられたから。
さっきよりも顔を真っ赤にした名字の反応に(悪くないなぁ〜)とにこにこしていたら、ジ、とした上目遣いで睨まれてしまった。


「土屋君は、やっぱりいじわるだ」
「名字にだけや」


またすぐに抱きしめたくなった手をどうにか押し留めて、かわりに彼女の頭をぽん、と撫でた。



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