南くんのとなり | ナノ
彼女の視線の先
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花道がインターハイの初戦を突破した。
それは一触即発の荒れに荒れた試合内容だった。途中で流川が怪我をした時はどうなるかと肝を冷やしたけど、それでもなんとか立て直して勝つことができた。

花道が勝ったことは素直に嬉しい。皆で手伝った合宿の成果も見られたし、俺は湘北の応援をしに来たんだから。

・・・ただ、試合が終わった後にもう一度見かけた名前さんの表情を見て、俺の浮かれ気分はどこかへ飛んでいった。

名前さんがいた席は俺とは少し離れていたけど。退場する豊玉の選手に拍手を送りながら、泣きそうなのを必死に我慢してたその表情が、俺のところからでもはっきりと分かった。昔から、目は良いほうだった。


(あの4番・・・かな)


名前さんが特に気にかけているように見えた男は、すでにコートから去っていた。

声をかけようか、挨拶くらいならいいだろうか。普段の俺ならそんなこと深く考えたりせずもっと気楽に彼女と接しているはずだ。
喉から出かかった声と、中途半端に伸びた自分の手を引っ込めた。


(俺じゃダメ、なんだろうなァ・・・)


会場で偶然彼女と会ったときから、その視線はずっと一人に向けられていて。どうやったって間に入り込むことなんて出来そうにない。名前さんの視界に、俺は少しだって写ってはいなかった。



「水戸君、どうかしたの?」


すぐ隣から聞こえた声にいつもの声音で振り返った。「・・・ちょっとね」と意味ありげに微笑む俺に首を傾げた晴子ちゃん。


「それより、湘北のところに行こうか」
「うん!そうしよう!」


大きく頷くと、他の友人たちにも声をかけて観覧席から去る。最後尾にいた俺はもう一度、名前さんがいた場所に目をやった。そしてもう誰も座っていないその席に向かって小さなため息を吐く。

なんとなく、彼女と会うことはもう無いんだろうと思った。そんな気がした。



(・・・俺、自分で思ってたよりも、名前さんに憧れてたんだな)





#58くらいの水戸君の心境。

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