南くんのとなり | ナノ
未来のこと
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冬休みはあっという間に終わり、クリスマスも初詣もみんな受験生ということで特に何をするでもなく、坦々と毎日が過ぎていった。

そして、よく雪が降り吐く息もまだまだ白いこの時期は、相変わらず寒い日ばかりが続いている。




「おーい、名字。起きとるかー?」
「は、はいっ」


今が授業ってことも忘れて考え事をしていた私は、覗き込んでいる先生の顔を見てハッとしてから、慌てて姿勢を正す。

クラスの皆が自分に視線を集めているのがひしひしと感じられて、小さな声ですいませんと返すのがやっとだった。
先生が微笑みながら「ほんじゃ、次の英文は名字に読んでもらおか」と言ったので、私はその時初めて今が英語の授業中なのだと気が付いた。


なんとか無事に英文を読み終えて顔を上げると、斜め前に座る岸本君が私の方を振り向いて何か言いたげにニヤニヤと笑っていたけど、私はしかめ面を作るしかなかった。



「次んとこも誰かに読んでもらおか・・・なんや岸本、俺の授業がそんなに楽しいんか?」
「まさか!そんな訳ないっすわ」


その内、先生から「次はお前や」と言われて心底嫌そうな顔をした彼を見て、今度は私がさっきの彼と同じような顔をしてやった。
岸本君はいつも私をからかうからいい気味だとこっそり笑った。



「もう卒業やな・・・」
「あっという間だったよね」


お互いの席に座ったまま、体の向きだけかえて岸本君とお喋り。

今週末に多くの人が試験を受けて、それからは殆どが自由登校になるので、岸本君や友人たちと顔を合わせるのも本当にあと何回か。
その寂しさを紛らわそうと、私はいつもよりも明るい声で話をした。


「名字とは長いこと一緒やったな」
「岸本君と同じクラスになれて良かったよ。すごく楽しかった」
「なんやねん。煽ててもなんも出えへんで」
「ホントのことだもん」


私がそう言うと「ふーん・・・」とさも興味がないような態度をとる彼だけど、解いた髪をくるくるさせる姿が照れ隠しにしか見えなくて、つい口元が緩んだ。



「・・・にしても、名字は卒業したら東京行ってまうんか」
「うん」
「そら寂しなるわ」


少し困った顔をしてポツリと呟いた岸本君。そのしみじみとした雰囲気を変えるように今度は私から彼の進路について聞いてみた。


「俺は教育。先生になるんや」
「へえ!先生なんだ!」
「小学校のな」


頭悪いからなれるか分からんけど、と続けられた言葉に私は大きく頭を振った。
だって、簡単に想像できる。岸本君が将来、子供達と一緒になってバスケをしたり、笑いあったり。


「きっと素敵な先生になるよ」


これは私の本心で。
そして実際にその通りになるという確信があった。


「まあ、名字の子供の面倒なら見たるけどな」
「なんか、恥ずかしいね。聞きようによっては告白みたい」


「・・・告白やったらどうする?」


さっきまでとは打って変わって、今朝のようなニヤリとした笑い方をする岸本君。彼にしては珍しい冗談だな、と思った。

(・・・こんなやり取りも、いつか懐かしく思う時が来るんだろうな)


「うん。岸本君ならアリかも」
「・・・アホ」
「あれ?照れた?」
「照れてへん」


私に背を向けてしまった彼が「俺は分かっとんやで」とぶつぶつ言っていたけれど、何のことか分からなくて私はただ頭にハテナを浮かべていた。


(・・・名字が好きなやつくらい)
(お見通しやっちゅーねん)


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