南くんのとなり | ナノ
雨に溶ける
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いよいよ来月あたりに入試を控える受験生のピリピリとした空気の中で、とにかく私は息を潜めていた。


(・・・みんなの邪魔はしたくないよね)



あと何日かすれば冬休みになるだなんて、その流れるような時間の早さに私も例外じゃなく焦っていて。
学校とバイトに励む毎日は退屈では無かったけれど、頑張っている友人たちに遠慮して一緒に過ごす時間が少なくなっていることが、ひたすら寂しくもあった。



「雨・・・?」


昼休みのひと時、歩いていた廊下からふと窓の外を眺めるとどんよりとした空から雨が降り出していた。朝から怪しい天気だったし、予報では曇りのち雨だったから特に驚きはしないけれど。


「あー・・・降ってきよったな」
「ちゃんと傘持ってきた?」


立ち止まっていた私の横にスッと近付いてきたのは、同じように空を眺める南君だった。
少し眉間に皺を寄せながら、私の問いかけに「置き傘があんねん」と返す。


(あ・・・)


こうして彼と話していると、通りすがりの女生徒たちがチラチラ視線を向けてきていた。南君は相変わらず人気があるし、それは仕方がないことなのかもしれないけど。あまり居心地がいいものじゃなかった。

だからと言って会話を止めたりはしないけども。


「ねえ、南君」
「ん?」
「・・・大学でバスケはするの?」


この際だからと、ずっと気になっていたことを南君に聞いてみた。
私よりずいぶん上にある彼の目が、チラリとこちらに向けられる。


「まあ、話は来とったんやけどな」


すごい、と呟いた私から視線を切って、南君は窓枠に背をもたれた。腕を組んでひとつため息を吐くと、また口を開く。


「俺な、実家継ぐねん。せやから薬科大に行くつもりや。たぶん、バスケはせえへんやろな」
「そっか・・・」


じゃあ、もう今までみたいに彼のプレーを見ることは出来なくなるのかと考えて、すごく悲しい気持ちになった。バスケをしてる時の南君は本当に格好良いから。
でも彼の実家のあの薬局屋さんで働いてる姿を想像すると、私は思わずクスリと笑ってしまった。頬杖をついて「いらっしゃーい」なんて気怠げに言ってるんだろうなあ、とその光景を思い浮かべると心が温かくなった。
(私はその時、南君の近くにいるのかな・・・)


「名字はどうなん、進路」
「私は短大」
「へえ、大阪?」
「ううん・・・東京なの」


「・・・は?」


東京という言葉に目を丸くした南君。私が眉を下げてハハハ、と乾いた笑いを浮かべていると、彼は遠慮がちに私を覗きこんだ。


「・・・いつから、決めとったん」
「最初からだよ」


そのまま沈黙してしまった南君に首を傾げていると午後の授業の予鈴が鳴ったので、私は軽く手を振ってその場をそっと後にした。



「・・・・・・嘘やろ・・・」


南君の呟きは他の生徒たちの喧騒と雨の音に溶けて、私の耳に届くことは無かった。


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