南くんのとなり | ナノ
なんとかはレモンの味
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毎度おなじみの期末試験が終わった頃には秋も半ばで、どちらかというと冬寄りの寒い日が続いていた。
試験を終えても三年生は受験を控えている人が多いから少しピリピリとした空気が広がっていて、あまり解放感は無かった。


(・・・仕方ないけどね)


「名前、今日もバイト?」
「うん。やっと慣れてきたって感じだよ」
「楽しそうにやってるやん。マスターもええ人やしホンマ良かったな」
「ふふ、まあね」


最近の私は、学校が終わった後は駅近くの喫茶店でバイトをする毎日を過ごしていた。早くに短大の受験が終わったので、後は他の人を刺激しないように穏やかに学校生活を送りながら、卒業を待つのみとなった。





「名前ちゃん、あのお客さんにホット運んでくれる?」
「はーい」


喫茶店は以前友人と一緒に入ったところで、マスターにお願いしてみたところちょうどこの春までの短期でアルバイトを探していたらしく、驚くほどトントン拍子に話が進んだ。
初めてのバイトに緊張していたけれど、慣れてみれば何のことはない、私にとってはとても楽しい時間だった。
・・・本当、これでお金を貰うのが申し訳ないと思うくらい。




カランコロン、と鐘が鳴ると条件反射で「いらっしゃいませ」と言えるようになってきた。
そうして私が笑顔で振り返ると、入り口に立っていたのは目を丸くした学生服の男の子がひとり。


「あ、名字」
「土屋・・・君」


夏前に偶然出会って以来、顔を見ることも無かった彼が、そこにいた。

「バイトしてるんや?」と言って首をちょこんと傾けた土屋君に頷いて返しながら、近くの席を案内した。待ち合わせをしてるという彼の言葉にもしかして彼女なのかな、と想像しながらメニューを見せる。


「ホットコーヒーひとつ、お願いします」
「かしこまりました」


面白いものでも見るかのように頬杖をつきながら眺めてくる土屋君に照れるからやめて欲しいと制止の声を発すれば、ふふ、と笑われてしまった。

マスターにホットコーヒーを頼むと、こちらでも「あの男前、彼氏なん?」とニヤニヤした顔を向けられたので、私は必要以上にぶんぶんと首を横に振って否定しておいた。
土屋君とマスターはどこか似たところがあるなぁと、内心でため息を吐く。

(よく人をからかうところ、とか)




「・・・お待たせしました」
「ん、ありがとう」


淹れたてのコーヒーを土屋君の目の前に
コトリと置く。
「ごゆっくりどうぞ」と声をかけてそのまま体を反転させようとした時、引き止めるように土屋君が口を開いた。


「それにしてもアレやな・・・この遭遇率は大したもんやと思うねんけどなァ」
「え?」
「なんか感じるもんがあるというか・・・」
「・・・土屋君?」
「いや、気にせんといて」


フ、と笑いながらカップに手を伸ばした彼はそれを一口飲んでまた置いた。
聞こえてきた鐘の音で入り口を見やると、土屋君と同じ大栄の制服を着た男の子が店内をぐるりと見回して、それから真っ直ぐに私たちの方へ歩いてきた。


(・・・待ってたの、彼女じゃ無かったんだ)


「やっと補習終わったわ。待たしてごめん」
「ええよ。むしろ待ち合わせ場所ここにしてくれて感謝やで」
「・・・は?」
「・・・こっちの話。ほな行こか」


いつものニコニコとした表情でお会計にきた彼にお釣りを渡したところで、そのまま手のひらの上にちょこんと飴玉を乗せられた。黄色い包装紙に包まれたそれにお礼を言えば、「名字、レモンの飴ちゃん好きやろ?」と微笑まれてしまい、思わず心臓がドキッと鳴った。


(覚えてくれてたんだ・・・)


二人が店を去った後も、飴玉をポケットの上から触れながら何度も彼のことを考えてしまった。


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