南くんのとなり | ナノ
その瞬間にときめく
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「北野さんって、凄い人だね」
「恩師やねん。めっちゃ尊敬しとる」
「南君と岸本君のこと、ずっと見てくれてたよ」
「みたいやな」


会場を後にして、ぽつりぽつりと会話をしながら広島駅までの道のりを歩く私と南君。


「・・・ねえ南君、本当にいいの?」
「おん。なんや名字は心配性やな」


隣を見上げて、もう何度目かの確認をする。私の今の表情はきっと情けないものだと思う。


・・・つい先ほどの事。




「名字・・・っ!」


私を呼ぶ声に振り返ると、こちらに向かって駆けて来る南君がいた。彼は驚いて目を丸くする私に視線を合わせて一拍を置き、駅まで送ると言った。


「そ、そんなの悪いよ!・・・それにバスケ部の人たちは?こんなところにいて、いいの?」
「ここまで来てもろたんやから、見送るのは当たり前や」
「でも・・・」
「岸本にはちゃんと言うとる。ほら行くで」


私がいくら遠慮しても南君は引いてくれなくて。せっかく追いかけてきてくれたんだしと思って、甘えることにした。きっと試合の後で疲れてる筈なのに相変わらず優しいなあ、とまた一つ彼の良さに触れた。







歩き出してしばらく、広島駅に到着した私たちは一緒に改札をくぐって、大阪行きの新幹線が来るのを待っていた。


「そういや、大栄は勝ったらしいで」


南君が唐突に言うので、私は一瞬反応が遅れた。すぐに土屋君のところだと気が付いて、少し複雑な気持ちになる。それは南君も同じみたいで、眉根を寄せて険しい顔をしていた。


「悔しい、けど・・・豊玉はもう応援する側や」
「勝ち残ってくれるといいね」
「・・・せやな」


それから少しの間、二人の間に会話は無く。多くの人が行き交う雑音だけが聞こえていた。
その中で突然ホームにアナウンスが流れて、線路を見やれば、その先に小さく新幹線が見えた。


「来たんちゃうか」
「そうみたいだね」
「・・・気つけて帰りや」
「うん。また学校で」


発車する時刻が近づいて、周りの人たちが慌しくなった。頃合いを見て私が手を振ると、同じタイミングでベルが鳴ったのでドアからそっと離れた。

私の方をまっすぐ見つめていた南君は、ドアが完全に閉まる瞬間、最後に口を開いた。


「・・・じゃあまた、名前」


それは聞こえるか聞こえないかくらいのとても小さな声で、私は一瞬、聞き間違いかと自分の耳を疑った。


「・・・え?」


いま、聞き間違いじゃなければ、彼はたしかに"名前"と言わなかっただろうか。動き出した新幹線とともに遠くなっていく南君を、私はただその場に立ち尽くしたまま見ていた。


「・・・っ」


座席に座って暫らくしてもまだ頭に残る先ほどの光景に、遅ればせながら心臓が激しく脈打ちだす。大阪に着くまで何度も彼の声を思い出しては、言いようのないときめきに一人頬を染めている私を見て、乗車券の確認に来た車掌さんが不思議そうにしていた。

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