南くんのとなり | ナノ
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「オレは湘北の4番のようなセンターを目指す!」
「じゃあオレ11番!」
「オレも!」


もう少しでタイムアウトが終わるという時の、子供たちの会話に私は思わず苦笑いをした。


「みんな・・・豊玉の応援じゃないの?」


私がそう聞けば、北野さんも呆れた声音で「お前ら、ワシの教え子は豊玉やで」と続けていた。


「ああそやった」
「そや豊玉や」
「よしみんな義理で豊玉を応援しようで!」
「おう!」


子供たちの素直さに感心するやらちょっと悔しいやらで、私は大人気ないとは思いつつも皆に豊玉の良さを伝えた。
南君なら、岸本君なら。きっと追い上げてくれるよと私が説明した直後、怪我から戻った南君が連続スリーポイントを決めた。

(やった・・・!)


「おお入った!」
「うおーっ!4番すげえ!」
「オレ、豊玉の4番目指すことにするわ!」
「あっズルイ!オレも!」


その様子を見ていた私と北野さんは顔を合わせてフ、と小さく笑った。


しかしその追い上げムードの半ば、電光掲示板に表示された87対91という数字が逆転しないまま、会場には試合終了のブザーとホイッスルが鳴り響いた。
豊玉の選手たちが流す涙を見て、私の目からは同じように涙が溢れ出ていた。




「じゃあまたな、名前ちゃん」

「名前ねーちゃん泣きすぎや!」
「あんまり泣くとブサイクなんで!」


湘北との試合が終わり、すぐに帰るという北野さんや子供たちとは軽い別れの挨拶をした。また大阪で会いたいと言ってくれた皆に涙ながらに「ありがとう」と返し、私は泣いたせいで赤くなってるだろう目を洗いにトイレに向かう。


南君や岸本君の最後の夏は初戦負けという悔しい結果だったけれど、私はこの試合を見ることが出来て良かったと思った。本当に、広島まで来て良かった。




豊玉のバスケ部の人たちはまだ控え室なのかなと考えながら、私はロビーにあったソファでひとりぼうっとしていた。

ふと視線をやったところに自動販売機があって、応援でちょうど喉も渇いてたし何か飲もうと立ち上がる。そこから数歩進んだところで、横から来た誰かにぶつかってよろけた。


「わっ・・・」
「おっと!」


そのまま倒れると思って硬く目をつむったけれど、その衝撃はいつまで経ってもやってこなくて、かわりにぶつかった人に二の腕を掴まれていた。


「すんません!俺、ちゃんと前見てなくて!」
「あ・・・いえ、私もぼけっとしていたので」
「怪我とかしてないっすか?」
「平気・・・です」


「何してんの、信長」


ぶつかった子がニカッと笑ったのと同時に、また違う人の声が隣から聞こえた。

信長と呼ばれたその男の子が「神さん!」と言って振り返ったので私もそちらを向く。
お揃いのジャージを着た二人はどこかの学校のバスケ部員だろうか。


(かい、なん・・・かいなん・・・海南?)


そのジャージにかかれたローマ字を読みながら、聞き覚えのある名前に首を傾げる。

もう一度申し訳なさそうに会釈をして去っていった二人。海南、といえば私の友人がいる神奈川の高校もそんな名前だったと、少ししてから思い出した。たしかバスケの強豪校だったような。


(この会場に、いるのかな・・・?)


一緒にミニバスをしていたその友人がもしかしたら近くにいるのかもと、久しぶりに再会できるかもしれないと胸を躍らせたけれど。辺りを見渡してもそれらしい姿を見つけることは出来なくて、結局私はそのまま会場を後にしようと出口へ向かった。


「・・・あ、そういえば」


喉が渇いてたんだっけ、と後になって気が付いたけど、今さら戻ることも無いかと思いそのまま歩を進めた。



「名字・・・名字っ!」


外に出て、まだ眩しい日差しの中で目を細めていた私を呼び止めたのは、望んでやまない彼の声だった。


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