頑張れ、南くん
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「み、南君っ!」
「うわ・・・あれ血出てんで!」
「痛そお!」
驚いて立ち上がっていた私は子供たちのその言葉に一瞬目の前が歪んだ。背中をつつ、と嫌な汗が流れる。
(すごい、音・・・頭打ってた・・・)
湘北のエースに続いてまたも選手が担架で運ばれる事態に、会場は至るところで戸惑っているように思えた。もちろん、私もその中のひとり。
南君が不安で顔を上げていられなくなった私は、震える拳を強く握ってただ俯くしかなかった。大丈夫なはず、とひたすら自分に言い聞かせる。
「・・・名前ちゃん、あのアホの様子見にいこか」
その優しい声に顔を上げると、柔らかく微笑んだ北野さんと目が合った。そっと私の腕をつかんで立たせると、北野さんは私を引っぱって南君がいる所へ向かった。
「名字・・・?」
「よかった、南君・・・心配した」
ロビーのベンチで横になってた南君が、目を覚ました。彼の頭にある包帯は北野さんが巻いたもの。
「どアホが・・・あんな無茶苦茶につっこんだらオフェンスファウルに決まっとるやろが南」
「・・・!」
「よし・・・と大した傷やなかったわ」
目を丸くする南君を見て北野さんが笑った。その隣で私も安堵のため息を吐き出す。
観客席から見ていたよりも南君の怪我は軽いもので、これならきっと試合に戻れるだろうと思えた。きっと逆転してくれる。
(二人の邪魔したくないし・・・戻ろうかな)
私がそう思って一歩後ろに下がると、両側からグイッと服の裾を掴まれたのが分かった。驚いて見れば、上にいたはずの子供たちがみんなロビーまで来ていて。
「ホンマかーかんとく?」
「ごっつう血ィでとったやん」
わらわらと私たちの周りに集まって、南君の怪我を気にしているようだった。
「こらお前ら何でここにおんねん!上でちゃんと試合見とかなあかん!!」
「今タイムアウトや」
「そやから降りてきた」
「タイムアウトなんか一分で終わりや!!はよ戻らんかいっ」
「「「はーい」」」
北野さんに追い返された子供たちと一緒に、私も手を引かれながら観客席へ戻る。
最後にもう一度振り返ったとき、南君は小さくだけど私に向かって、ぐっと拳を握っていた。
(・・・頑張れっ)
同じように手を握って、それから私は彼に背を向けた。フ、と緩んだ口元は誰にも見られること無く。
「名前ねーちゃん早よ行こうや」と急かす子供たちに置いていかれないように、私は少し慌てながら観客席への階段をのぼった。