インターハイ
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「生きて帰れる思うなよ赤アタマァッ!」
「コラァ10番!!」
とてもバスケットの応援とは思えないようなヤジが飛び交う中、ジャンプボールで試合が始まった。
桜木君の挑発で怒りまくってる豊玉の部員たちはそこかしこから暴言を吐いていて、そのガラの悪さが嫌ってほど際立っていた。
(いつもはこんな喧嘩腰じゃないのに、なぁ・・・)
コート内では選手たちが動き出していて開始一分も経たずに豊玉が6点を積み、南君が素早いモーションで3Pを決めたところで、湘北が交代のブザーを鳴らした。
湘北が追いつけば、またすぐに点を取り返す。そうして豊玉が常にリードを保っていたけれど、試合の内容はローペースの割りにファールが多い荒れた内容だった。
「相手に合わせてどないするんや」
後ろにいたおじさんが深いため息とともにそう呟いた。
(・・・関西弁だ)
それに反応したのは私の周りにいた小学生くらいの男の子たちで、聞こえていた会話からどうやらミニバスをしているらしい。おじさんのことを監督って呼んでいるから、大阪からわざわざ子供達を引率して応援に来たのかと勝手に想像する。
「ホンマに監督の教え子やったんー?」
「なんや豊玉の人ら、いうほどでもないなぁ」
「湘北の11番のほーがかっこええわ」
「・・・そう言われてもしゃーないな、あの馬鹿ども」
その話ぶりからおじさんは南君たちの知り合いなのかと考えながら、その時はまだ、私は余裕を持って試合を観ていた。
(あっ・・・!)
「ワザとやりやがったなてめえ!!」
「よせ桜木!!」
それが起こったのは、前半の終わり間際。
ゴッ!という鈍い音が聞こえて、すぐに甲高い笛が鳴った。審判が豊玉のインテンショナル・ファウルを取る。
オフェンスボールを持った南君の肘が湘北の11番の子の顔に直撃してしまった。そのまま担架で運ばれた事で湘北はエースを失い、南君には疑いの目が向けられた。
「・・・ねーちゃん大丈夫か?」
「顔色悪いでー?」
「えっ・・・あ、」
前半終了のブザーで我に返り、視線を感じて隣を見やれば心配そうにした少年たちが私の方を凝視していた。
「お嬢ちゃん、シンドイんやったらどっかで横なるか?」
後ろのおじさんにまで気にかけてもらって、私は慌てて首を横に振る。問題ないと伝えるとまだ少し心配したような顔だったけど、納得してくれた。
「なあ、ねーちゃん豊玉の応援やろ?拍手しとったし」
「う、うん」
「せやったらあの兄ちゃんたちのトモダチなん?」
「そうだよ。私も豊玉の生徒なんだ」
「へえー」
ハーフタイムの間、時間を持て余していた数人の子達が私に興味を持ったのか交互に質問してきた。それに当たり障りなく答えていれば、前半終了間際の胸がつまるような息苦しさは無くなっていた。
「なんでひょーじゅん語なん?」との問いには苦笑いしながら「引越してきたんだよ」と言うと、その様子を見ていたおじさんが子供達を窘めた。
「すまんなあ、お嬢ちゃん」
「ふふ、構いませんよ」
「・・・わしは北野。こいつらのミニバスの監督なんや」
怪しいもんとちゃうで、と茶目っ気のある自己紹介に私はくすくす笑いながら「名字名前です」と言って軽く頭を下げた。