南くんのとなり | ナノ
いざ、広島へ
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前の日の夜、インターハイの応援で広島に行くと両親に伝えると、二人は揃って驚いた様子だった。


「何の部活なんだ・・・?」


尋ねてきた父にバスケ部だよと答えれば、横で聞いていた母が口を開いた。


「それって男子の方よね?」
「・・・うん、そう」


別に隠すつもりは無かったから正直に頷けば、途端に母は顔を輝かせて、その反対に父は眉を下げて寂しそうな顔をしていた。
それを首を傾げて見ていたら、何を勘違いしているのか分からないけれど、とにかく嬉しそうにしている母がカンパとして新幹線代をくれたので、遠慮せずに貰っておいた。

(ありがとう!お母さん)






現地まで応援に行く豊玉の生徒は少なくないみたいだったけど、残念なことに私と仲のいい友人たちはことごとく用事があるみたいで、その日私は結局一人で広島の地を踏んだ。


"全国高校総体男子バスケットボール競技会場"


「ちゃんと合ってる・・・よね」


なんとか試合会場に着いて、大きな字で歓迎と書かれた垂れ幕を見上げる。
流石は全国大会だけあって、まだ入り口なのに中からはものすごい声援が聞こえてきていた。

(始まる前から、すごい熱気・・・)



「いてまえーっ!トヨタマーッ!」


豊玉の部員たちを見下ろしながらどこに座ろうかと席を探していると、突然目の前で誰かが勢いよく旗を振りだした。


「うおーっ!湘北ーーっ!」


(炎の男・・・三っちゃん?)


激しい動きに驚いていると、スタンドに座っていた豊玉の部員たちが一斉に振り返って、ものすごい形相でその旗の持ち主を睨みつけた。


「うわあああ!徳ちゃん逃げろーっ!」
「ケンカ売っとんのかコラァッ」


よく見ると逃げ出した人たちは湘北の生徒みたいで、豊玉の応援団の中にいたものだから彼らの怒りを買ってしまったようだった。

その剣幕に私が少し後退りしていると、逃げていた湘北の人たちがサッと柱に隠れているのを見つけて、私は同じ豊玉の生徒として何となく心の中で申し訳ない気持ちになっていた。




「あれ・・・もしかして名前さん?」
「えっ・・・!」


後ろから聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、しばらく会ってない顔を頭に浮かべながらまさかと思いつつそちらを向くと、「すげー久しぶり!」と片手を上げた水戸君がいた。

どうして?と聞く前に、湘北高校が神奈川代表だったことを思い出した私は、水戸君の後ろに他の顔見知りの子たちもいるのに気が付いて、そちらに小さく手を振った。


「そっかぁ、もう高校生なんだよね。みんな湘北なんだ?」
「そう。もちろん花道もな」
「桜木君!あれ、一緒に来てないみたいだけど・・・」
「ハハ、たぶん名前さん驚くよ」

「・・・もしかして選手なの?」


にや、と悪戯っ子のように笑って「正解」と答えた水戸君。

彼は本当に、会うたび大人っぽくなっているような気がする。これは高校でも人気があるんだろうなーなんて考えながら、私たちはしばらく雑談を続けた。



「まさか、初戦の相手が名前さんの学校とは思わなかったよ」
「私だってそうだよ・・・なんかちょっと複雑だね」
「花道相手だと、そう簡単にはいかないと思うぜ?」
「む・・・豊玉だって・・・」


南君がいるんだから、と続けそうになった言葉を私は慌てて飲み込んだ。子供じゃあるまいし、ムキになってもしょうがない。

一緒にどう?と隣の座席を指差す水戸君に緩く首を振って、一応敵チームだからと断った。
残念そうにしてくれたのは嬉しかったけど、私は南君の応援をしに広島まで来たのだから、周りを気にせずにしっかりと試合に集中したいと思っていた。


「私、もう行くね」


最後にそう言って手を振ると、水戸君や他の三人も手を上げて微笑んでくれていた。

それと同時にコートにあらわれた両チーム。


(・・・頑張れ、南君)


たくさんの声援の中で、私の視線が彼以外にブレることはなかった。



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