南くんのとなり | ナノ
昨日の敵は今日の友
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南君や岸本君の心配していたテストが無事に終わって、その結果にホッと胸をなでおろしたのが少し前のこと。それから気が付けば終業式を迎えていて、配られた成績表にそれぞれが一喜一憂していた。

私は・・・まあ、それなりに良かったと思う。


数日が過ぎ夏休みになると、勉強をしたり友人と出掛けたりして毎日を穏やかに過ごしていた。・・・こういう時、部活に入らなかったことを少しだけ後悔したりする。

そんな中で、バスケ部のインターハイがもう来週にまで迫ってきていて、自分が試合に出るワケでもないのに日増しに緊張していくのが分かった。




「よう会うなあ、名字」
「・・・みたいだね」


気分転換に買い物でもしようと思い駅前の本屋まで足を運べば、まるでタイミングを見計らったように出会ったのは、午前練帰りの土屋君だった。

この前友人にいわれた『土屋とは、なんもないんよな?』という言葉が脳裏によみがえって少し気まずく思ったけど、すぐに頭を振ってそれを打ち消す。今日会ったのだって偶然なんだから、やましいことなんてない。


「元気にしとった?」
「うん。土屋君・・・大阪優勝おめでとう」


私がそう切り出すと彼は目を見開いて、それから小さく笑った。


「・・・知っとったんやね」
「決勝戦、観に行ったんだ」
「ほな僕のプレーもみてくれたん?」
「豊玉の応援しながらね。負けて悔しかった」
「そら・・・すまんなあ」


にっと微笑みながら手を頭の後ろにやった。全然すまなそうに見えない。それでも試合の時とは随分物腰が違って、今はいつもの穏やかな様子だった。

あー、と言い淀んだ後、こちらを見ながら「・・・インターハイには?」と聞いた土屋君。私が行くつもりだと答えると、今度はスッと目を細めた。
彼の色白な肌と薄く微笑んだその表情がなんとなく人形を彷彿とさせて、本当に綺麗な人だと思った。

(やっぱり・・・かっこいい、よね)


「土屋君も頑張ってね、今度は応援するよ」
「名字がそう言ってくれたら、優勝も出来るかもしれんわ」
「ふふ、本当?」
「っ・・・うん」


私が笑いかけると、土屋君は一瞬ビックリしたような顔をした。

それを不思議に思ったものの、彼が話題をかえるように目の前の棚に手を伸ばしたので、私は本来の目的を思い出し「お会計してくるね」と言って手にしていた本をレジまで持っていった。

(・・・本屋さんにいたこと、忘れてた)



「何の本買ったん?」


一緒にお店を出ると、外はまだ午後の日差しが眩しくて思わず眉間がよった。

土屋君の質問に「・・・これ」と見せた本のタイトルは"夏に食べたいデザートレシピ"。


「ええなあ。インターハイで頑張るから、僕にも作って?」


顔の前で両手を合わせてお願いのポーズをする土屋君が可愛く見えてしまって、私はただ頷くだけだった。


「またな、名字」
「・・・じゃあね」


別れ際、もう一度友人の『土屋とは、なんもないんよな?』という言葉が頭に浮かんできた私は、それ以上彼を振り返ったりせずにまっすぐ家に帰った。



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