南くんのとなり | ナノ
お疲れさま
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「あ、やっぱり間違えてた」


県大会の決勝リーグに出場する豊玉のバスケ部を応援するために、私は朝早くに起きて余裕を持って家を出た。
・・・はずだったんだけど。


(・・・何年大阪に住んでるんだろう、私)


試合会場に着くバスに乗ったつもりが途中で道が違うことに気がついて慌てて正しいバスに乗り換える。時間に余裕はあったものの、南君に「応援するから」なんて言っておいて道を間違えるなんて、と私は自分自身に呆れていた。




「よかった・・・まだ始まってない!」


なんとか試合会場に着いて、私は他の人の邪魔にならないように空いてる観客席に座る。大阪府の一位を決める高校バスケの試合だけあって人が多く、辺りはすでに熱気で包まれていた。



試合はとてもローペースな点の取り合いとなり、前半を終えた時には28-36で大栄学園がリードしていた。後半が始まってもそのリードは保たれたままで、豊玉にはなかなか厳しい状況だった。

手に汗を握りながら、コートを走る南君や岸本君を見つめる。ベンチ入り出来なくて観客席で応援してる他の部員の人たちの声援に合わせて、私も心の中で応援した。



「戻れ戻れっ!戻らんかいーっ!」


そう叫ぶ岸本君に対して、とても冷静な判断で味方にパスをした土屋君。その鮮やかなシュートフェイクとパスに、豊玉を応援していた私も思わず感嘆した。

何個か隣の席から「おお ナイス!」という声が聞こえてきてそちらを見ると、ノートを片手に持った男の子がなにやらブツブツと呟いていた。一瞬、その子の口から岸本君の名前が聞こえたような気がしたけど、コートから歓声が上がってすぐにそちらに目を戻す。
どうやら土屋君が決定的なシュートを決めたみたいで、大栄サイドからは勝利を確信した雰囲気が漂っていた。




整列をした後、土屋君と握手をして何かを話していた彼の背中がなんとなく悲しそうに見えて、しばらく私の目に焼きついていた。



「・・・優勝は出来なかったけど、インターハイには行けるんだよね」


会場の熱気を背にした私はそのまま出口に向かって、まだ明るい太陽の下に出た。中では表彰式が執り行われていたけど、そのあと別に南君たちに会えるわけじゃないし。
なにより負けてすぐに話しかけられても彼らには迷惑でしかないと思って、私はまっすぐに帰ることにした。



(・・・悔しい、だろうな)


試合終了のブザーが鳴った時、肩で息をしながらこちらを見上げた南君と目があったような気がした。


次に学校で会ったら何て話しかけよう。


「大阪で二番目に強いんだから、すごいことだよ」
「一生懸命走る姿が格好よかったよ」


言ってあげたい事はたくさんあったけどどれも違うように思えたし、今日の試合で南君たちのバスケが終わったワケじゃない。


過ぎたことより、次に向かって背中を押せるように。


(とりあえず・・・お疲れ様、かな)


労いの言葉と一緒にインターハイも応援してるよと。私の中で一番の笑顔でそう言おうと決めて、ちょうど時間通りに来たバスに乗り込んだ。



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