応援してるよ
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桜が全て散ってしまう頃にはだんだんと気温も上がってきていて、長袖の制服だと少し暑く感じてしまう程だった。
帰宅部の私にはこれといって代わり映えのない毎日が続いているものの、部活動に所属している人たちにとっては今が大切な時期らしく。夏のインターハイに向けて、南君や岸本君はより一層バスケに身を入れているようだった。
「名字、岸本おる?」
授業の合間に現れたのは隣のクラスの南君で、彼は教室の入り口から中をぐるりと眺めると、たまたま近くを通りかかった私に声をかけてきた。
彼の姿を見て一瞬ドキッとしたものの、私はそれを顔には出さずに平静を装って振り返った。
(あ・・・南君、髪切ってる)
「日直だからって、さっきの授業の先生に教材運ぶの手伝わされてたよ」
そうか、と言いながら手を頭の後ろにやる彼をそっと見つめる私。その切り揃えられた前髪に視線をやれば、南君はバツが悪そうに明後日の方を見て、それから「・・・姉貴に切られてん」とつぶやいた。
南君があのお姉さんに髪を切ってもらってる姿を想像すると、なんだか可笑しかった。きっとお互いに文句を言い合いながらもお姉さんには逆らえないんだろうなぁ、なんて考えながらくすくす笑っていると彼がしかめっ面で私を見ていたので、慌てて笑いをひっこめて違う話題を探した。
「そういば・・・バスケ部ってもうすぐ決勝なんだよね。インターハイ予選の」
「よう知っとるな」
豊玉バスケ部は例年通り順調に2次予選を突破し、夏のインターハイを懸けた決勝リーグはこれから始まるようだと、弟が高校でバスケをしてるという友人が教えてくれた。
そうじゃなくてもここ最近の学校中の話題といえば専らバスケ部のことだったから、むしろ知らない人の方が少ないくらいだった。
「あのね、南君・・・その、私すっごく応援してるよ」
「・・・おん」
私がそう言うとさっきとは打って変わってフ、と微笑んだ南君。
直視出来なかった私が俯き気味に「決勝戦、観に行こうと思ってるんだけど・・・」と伝えると、頭上からは彼の優しい声が降ってきた。
「待ってるわ」
それを聞いて私は照れくさいのと嬉しいのとですぐには顔を上げられなかった。
「・・・名字」
もうすぐ授業が始まるからと席に戻ろうとした時、南君が私を呼んで引きとめた。
「決勝リーグの相手には大栄もおんねん」
「土屋君のとこ、だよね」
「仲良いんやろ?」
「友達だけど・・・それとこれとは別だよ。私は、豊玉の応援をするから」
そういえば、前にもこんな会話をした気がする。あの時は何て言ったんだろうと少し記憶を辿った。
(たしか去年の練習試合の時だったよね・・・)
「・・・おおきに。ほな、行くわ」
背を向けた南君を見送っていると、少し赤くなった彼の耳に気が付いた。もしかして照れてくれてたり、するのだろうか。
南君のその姿にさっきまで考えてた去年の光景が頭によみがえって、私は彼よりも顔を赤くしながら自分の席に戻った。
(思い出しただけで、恥ずかしい)
『私は豊玉の・・・南君の応援するからね?』
『・・・』
いつかの自分の言葉に、しばらくは顔が火照ったままだった。