南くんのとなり | ナノ
あの時の人
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「いらっしゃいませ」


レジから顔を出した女の人のその声に、私の体は一瞬何かに縛られたみたいに動かなくなった。


かろうじて見渡した店内は変わった様子もなく、どこにでもある普通の薬局のように思えた。白衣を着た女の人は、固まった私がその場から動かないのを不思議に感じたのかキョトンとした顔で近づいてくる。



「何か探してる?手伝いましょか?」


私は思わず、一歩下がる。

とても気さくに話しかけてたその人に私はとても見覚えがあった。見たところ従業員の人みたいだけど、すらっと背の高い綺麗なこの人は以前友人と買い物をしてるときに偶然見かけたことがある。


(・・・南君と、一緒に歩いてた人だ)



ぎゅっと握った自分の鞄が変な形に変わりかけていたので、南君への届け物が入っているのを思い出した私は慌ててそれを元の状態に戻した。


(そうだ私は、先生に頼まれたこれを南君にお届けしないといけないんだから・・・しっかりしないと)


目の前にいるこの人が南君とどんな関係か気にならない訳じゃない。けど、頼まれごとが先でしょと何とか自分に言い聞かせて、ようやく顔を上げた。


「あの、お尋ねしたいのですが・・・」
「はい?」
「こちらに南君・・・南烈さんはいらっしゃいますか?」


私の中の勇気を総動員してそう言うと、その人は聞こえた名前に少しだけ目を丸くして私の方を見ていた。近くで見るとさらに美人で、私は変な汗が背中を伝うのが分かった。



「豊玉の制服・・・烈に何か?」
「はい、今日欠席した南君に担任からプリントを預かって、まして」


玄関の方は誰もいらっしゃらなかったようなので・・・と尻すぼみ言えば、わざわざありがとうと爽やかな笑顔で返される。

一瞬その笑顔が誰かと重なった気がしたけど、すぐには思い出せなかった。



「ほな、渡しとくね」
「・・・お願いします」


先生に託されたファイルを渡して軽く頭を下げれば、さっきまで微笑んでいたお姉さんがさらに表情をニコニコさせていて。その笑顔の意図が皆目分からない私は居心地が悪く、早くここから逃げ出したいとまで思った。



「あなた、名字さんやろ」
「はい・・・えっ、どうして?」
「烈の話にようでてくるから」
「・・・っ」


南君が私の事をどう話してるかが気になるところだったけれど、今の私にはそんな事聞けそうにない。それどころか、どくどくと打ちつけてる自分の心臓の音が、どうかこの人に聞こえてませんようにと祈るのに必死だった。


(もう、だめ・・・さっさと帰ろう)


緊張のせいでパニックになりかけていた私は、これ以上ここにはいられないと背を向けようとした。


「なあなあ。もしかして、烈の彼女やったりする?」


(・・・・・・ん?)


たった今までこの人が南君の彼女なのかもしれないと考えてた私は、その言葉に思考どころか体の動き全部が停止して、完全に帰るタイミングを失っていた。


(だ、誰か助けて・・・)


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